米の道路コンセッション会社が破産法申請、原因はどこに

2016/03/24

日経不動産マーケット情報

 制限速度は時速85マイル(137km)。全米で最も速い制限速度を掲げるテキサス州の有料道路で3月2日、運営権を持つ民間企業が連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。開通からわずか3年余りで事業破綻となった。

 道路や空港といったインフラの運営を民間に委託するコンセッション方式は、日本でも導入され始めている。仙台空港では2016年2月、東京急行電鉄などのコンソーシアムが旅客ターミナルビルなどの運営を開始した。愛知県の有料道路は10月の事業開始に向けて民間企業の選定が進んでいる。

 比較的安定した交通需要と料金収入が見込めるはずのコンセッション方式の有料道路事業。だが、道路の新設を含むコンセッション事業で、事業採算の鍵となる交通量を正確にはじき出すことの難しさを浮き彫りにした。



 連邦破産法の適用を申請したのは、テキサス州のオースティンとサンアントニオを南北に結ぶ全長146kmの州道130号線(SH130)のうち、南側の66kmの区間を運営するコンセッション会社だ。スペインのシントラ(Cintra)と米国のザカリー アメリカン インフラストラクチャー(Zachry American Infrastructure)が共同で設立した。

 SH130の15kmほど西側には、州間高速道路35号線(I-35)が並行して通る。1994年に北米自由貿易協定が発効したことで、I-35にはメキシコ国境から流入するトラックが増え、深刻な渋滞が生じるようになった。その渋滞を解消するために計画されたのが、有料道路のSH130だ。

制限速度「時速85マイル」の標識を掲げるSH130(写真:Bob Daemmrich / Alamy Stock Photo)
SH130の位置。緑色はコンセッション会社が運営する有料道路、赤色は州が手がけるその他の有料道路(資料:テキサス州運輸局の路線図に日経不動産マーケット情報が一部加筆)

 SH130の北半分の区間は、主に州の事業として先行して整備。2006年から2008年にかけて順次、開通した。一方、南半分の区間はコンセッション方式を導入した。シントラとザカリーのコンソーシアムが2007年、建設と50年間の運営権を獲得した。

 コンセッション会社は運営権対価として最低2500万ドル(約28億円)を州に前払いしたうえで、道路建設のための資金調達と工事、維持管理を担う。それと引き換えに、通行料収入を受け取る。ここでは道路の制限速度を引き上げるほど、つまり利用者にとって道路の魅力が高まるほど、コンセッション会社が州に前払いしなければならない運営権対価が増える契約だった。州が制限速度を時速85マイルに設定したことで、運営権対価は1億ドル(約110億円)増えた。

 SH130のコンセッション方式による総事業費は13億5000万ドル(約1500億円)。シントラなどが2億1000万ドルを出資したのに対し、優先ローンとして6億8600万ドルを欧州の銀行団から、劣後ローンとして4億3000万ドルを交通インフラ資金調達革新法(TIFIA)に基づき米連邦政府からそれぞれ調達した。2009年に工事が始まり、2012年10月に開通した。

事前の予測を60%以上下回る

 ところが、コンセッション方式を導入したSH130の交通量は、事前の予測を大きく下回った。2013年は514万台、2014年は598万台、2015年は689万台と年々増えたものの、収入は当初の計画と比べて60%以上少ない水準にとどまった。

 テキサス州運輸局は、渋滞するI-35にSH130への迂回を促す標識を設置したり、トラックの通行料を補助する制度を導入したりといった支援策を実施。コンセッション会社も2013年11月と2014年11月に通行料を段階的に引き上げた。

コンセッション会社のウェブサイト。「ブレーキランプだらけのI-35は避けて、SH130を通ろう」と訴えている(資料:SH 130 Concession Company)

 しかし努力は実らず、収支は改善しなかった。通行料は利用区間が長いほど増えるしくみで、2016年3月時点で乗用車は最大7ドル39セント(約830円)、一般的なトラックは同22ドル12セント(約2500円)となっている。

 コンセッション会社は交通量が予測を下回った理由として、長引く景気低迷を挙げている。加えて、広大な田園地帯を通るSH130の沿道にまばらにある市街地の開発の遅れも影響したと釈明している。現地紙のテキサス・トリビューンは、SH130のコンセッション方式の難しい点として、建設を含むグリーンフィールドの事業であったことを指摘する専門家の声を紹介している。

SH130を取り巻く巨大計画は中止に

 SH130の整備計画を遡ると、テキサス州が2003年に決定したテキサス回廊計画(Trans-Texas Corridor、TTC)にたどり着く。1990年代に州内の各地で問題となった交通渋滞を解消するために、全長6400kmの一大ネットワークを築くという構想だ。総事業費は16兆円~20兆円。大型トラックの専用レーン付き有料道路や高速鉄道、大容量の通信回線、石油やガスのパイプラインなどを一体的に整備する。

 TTCで提唱された複数の路線のうち、I-35沿いのネットワークを増強するTTC-35と呼ぶ計画のマスタープランの作成業務を2005年に受託したのが、シントラとザカリーのコンソーシアムだった。コンソーシアムは2055年までの段階的な開発計画をまとめるとともに、具体的な整備事業を優先的に受注できる権利を得た。この計画路線の一つがSH130で、接続する既存道路の拡張なども含まれる。

 ところがその後、TTCに対して巨大な事業費や用地買収、環境問題などに対する市民の懸念が相次いだ。州は2009年、TTC-35に基づく開発計画の中止を決定。コンセッション会社がSH130の工事に着手した後だった。TTC-35の計画中止と、SH130の事業破綻との因果関係は明らかになっていない。

 破産法の申請は民間企業による道路運営の失敗事例と見られがちだが、事業再建のための債務返済計画の見直しを目的としている。コンセッション会社はSH130を、引き続き運営していく方針だ。「交通量は着実に伸びている。接続する道路の整備などに伴い、I-35の迂回路としてSH130の認知度はさらに高まると信じている」と、コンセッション会社の最高経営責任者(CEO)は表明している。破産法の申請に伴う通行料の引き上げは予定していない。

 見方を変えれば、リスクを民間企業に移転して官のリスクを回避した事例とも受け止められる。テキサス州はコンセッション会社から運営権対価などとして、これまでに1億4200万ドル(約160億円)を受け取っており、州内のほかの道路整備に充てている。テキサス州運輸局はコンセッション会社の破産法申請を受けて「州や納税者がコンセッション会社の債務を負う責任はなく、州の財政にも影響はない」と発表した。

瀬川 滋、菅 健彦日経不動産マーケット情報