省エネ建築で健康になる!?

 建築物の省エネ化は、高断熱・高気密化から始める。窓や外壁、屋根など「外皮」の断熱性能を向上させて出入りする熱を減らし、室内を快適にする。昼夜や部屋間の温度差が小さくなるので、ヒートショックのリスクが抑えられ、結露によるダニやカビの発生も少なくなる。最近の研究では、健康の維持に効果があることも明らかになっている。

 高断熱・高気密化した建築物は、夏場は外から熱を入れにくくし、冬場は内から熱を逃さない。そのため、冷暖房のエネルギー消費量を削減する効果が見込める。庇などで日射をコントロールすることも有効だ。こうした建築的な配慮をした上で、高効率な空調や換気、給湯、照明といった設備機器を採用すれば、エネルギー消費量をさらに減らすことができる。

 エネルギーの需要が減ると、供給を減らすことも可能になる。日本はエネルギー資源を海外から輸入する化石燃料に頼っている。2011年の東京電力・福島第1原子力発電所の事故以降、世論は原発再稼働にも慎重だ。それだけに、省エネ建築の普及は切迫した課題と言える。

 2020年までに、全ての新築建築物は省エネ基準に適合するようになる。ただ、これまで適合を義務化してこなかったため、世の中は省エネ基準に適合しない既存建築物であふれている。これらを省エネ建築に改修する必要がある。

2020年は東京五輪・パラリンピックが開催されるとともに、全ての新築建築物に省エネ基準の適合が義務化される(写真:日経BP総研 社会インフラ研究所)
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 地域に目を向けてみたい。

 建築物の省エネ化を進めると、供給するエネルギーが少なく済む。化石燃料や原子力に頼らず、域内に整備した太陽光や太陽熱、水力、風力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギーで需要を賄えるようになるかもしれない。地域に適した複数の再生可能エネルギーをうまく組み合わせることができれば、域外からのエネルギーの輸入コストをゼロにすることも可能になるだろう。

 域外に流出していたお金が域内で回るようになると、地域の産業に多くの投資がもたらされる。より高性能、より高付加価値を目指した技術革新や製品開発なども期待できる。なにより、省エネ建築が普及すれば、健康な人が増えて医療費の負担が抑えられ、社会保障費の減少につながる。

 エネルギーの地産地消は、エネルギーの消費効率を改善する省エネ建築の普及と両輪で進めていかなければならない。

 省エネ建築は、地球温暖化を防止するだけでなく経済効果も生み出す。これが、省エネ建築が地域経済を動かす理由だ。

建築のプロの中でも、省エネ建築に前向きに取り組んでいる人とまだ前向きにはなれない人が拮抗している。上のグラフは、日経アーキテクチュア読者203人にこの春実施した調査結果から(資料:日経BP総研 社会インフラ研究所)
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 ただ残念なことに、現時点では省エネ建築に対する発注者のニーズがそれほど高くないため、省エネ建築に積極的に取り組もうという意識が設計者に浸透していない。省エネ建築は設計の自由度を阻害すると捉える風潮もある。規制措置の対象ではない300m2未満の建築物を主に手掛ける設計者にとって、「適合義務化はまだ先だ」という消極的な姿勢も目立つ。

 省エネ建築は設計者の意識が変わらなければ普及しない。日本にとって、一日も早く、省エネ建築が当たり前の社会になることを願いたい。

「日経アーキテクチュア」本誌では2017年10月26日号から、新連載「どんとこい!省エネ建築」をスタート。設計者がいまさら聞けない省エネ建築の基本や最新動向のほか、具体的な建築例を丁寧に解説・紹介します。「日経アーキテクチュア」購読者の方はデジタル版をご覧ください。