日経BPインフラ総合研究所が主催する「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」は岩手県内で実地研究を行った。中大規模木造建築のコストや資金調達の在り方、材料、工法などについて関係者の話を聞いた。2016年9月27日に訪れた住田町役場は、町産の中断面木材を使った純木造建築だ。

 森林資源に恵まれた住田町は岩手県南東部に位置する。北上山地の稜線を背景に建つ住田町役場は、長さ76m、幅22mのトラス梁の大屋根が印象的だ。その下の壁面には斜め格子のラチス壁が見える。いずれも木造架構を現しとし、大規模な木造建築であることを強く印象づけている。

トラス梁の大屋根、斜め格子のラチス壁など、建物全面に現しの木を使った住田町役場の全景(写真:井上健)
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 住田町は面積の約90%が山林であり、そのうちの40%を町有林が占めている。10年ほど前から「森林・林業日本一のまちづくり」を打ち出し、地域振興を行ってきた。東日本大震災で旧町庁舎が損傷を受けたため、住田町産の木材を使って住田町役場を建設した。「木を使うことで、木造の良さや国産木材の可能性を示したい。公共建築における木造のモデルとなるような庁舎を目指した」(多田欣一町長)。

 「住田町は気仙スギの産地だ。川上から川下までの木材流通体制を敷いている」と住田町林政課の岩田隆典副主幹は話す。町内の木工団地には、ラミナ工場や集成材工場、プレカット工場が立地。町が出資する第三セクターとして始まった工務店の住田住宅産業は、主に関東方面への営業や神社仏閣の木造建築について普及の役割を担っている。東日本大震災の際には、既に開発を進めていた木造仮設住宅を、隣接する沿岸地域の被災者を受け入れるためにいちはやく建設するなど、注目を集めた。FSC森林認証林への町単独の補助事業も行っている。

 東日本大震災で、住田町では震度5強の揺れを記録した。1957年に建設し、既に築50年を超えていた鉄筋コンクリート(RC)造の旧庁舎は、壁のひび割れや落下、ガラスの破損などで使用できなくなった。そのため、役場の駐車場にテントを張って災害対策本部を設置し、「隣接する津波被害を受けた沿岸地域の自治体の支援にも当たった」(佐藤英司総務課課長)。

 住田町では震災前から新庁舎建設基金の積み立てを行っており、被災を受けて新庁舎建設事業の検討を始めた。新庁舎については、町の政策に基づいて木造であることとし、2012年6月に設計施工一括発注・プロポーザル方式で公募。前田建設工業・長谷川建設・中居敬一都市建築設計異業種特定建設企業体が受注者に決まった。このJVに、意匠設計には松永安光委員が代表を務める近代建築研究所、構造設計には稲山正弘氏が代表を務めるホルツストラが参画し、13年8月に着工した。翌14年7月に完成、同年9月から新庁舎での業務を開始した。

 住田町内で生産される集成材は中断面以下となる。そのため、町内で調達できる材を活用して、スギ集成材によるラチス耐力壁、カラマツ集成材によるトラス梁をそれぞれ構成した。構造材で7割以上を、内装材を含めても同じく7割以上が町産材だ。

 住田町役場は、BCS賞、カーボンニュートラル賞、日経ニューオフィス賞など数々の賞を受賞している。

 新庁舎は、地元産木材と気仙大工の職人の技が融合した木造公共建築物のモデルとなり、木の文化の発信に役立っている。総務課が対応した視察だけでも、業務を開始して2年あまりで視察者は約1700名に及ぶ。佐藤氏は「木造建築であることで、執務に当たる職員にとっても、柔らかさ、温かさ、匂い、心地よさ、調湿効果など、働く場としての快適性も高められたのではないか」と話す。

中央が多田欣一町長、右が佐藤英司課長、左が岩田隆典副主幹(写真:井上健)
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正面入口を入った2層吹き抜け空間の交流プラザ。4本のスギ丸太柱が迎えてくれる。丸太柱は町民からの寄贈で、構造体とは切り離して自立している(写真:井上健)
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1階の執務室。2階の床を支える柱が7.2m間隔で並ぶ。執務室の器具も地元産材を使った(写真:井上健)
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庁舎2階の天井には、凸レンズのようなトラス梁がむき出しになっている(写真:井上健)
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トラス梁は湾曲した集成材ではなく、長さ約5mのカラマツの中断面集成材を3本組み合わせて構成した。燃えしろ設計による準耐火建築物である(写真:井上健)
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庁舎の脇には木質ペレットボイラーによる冷暖房設備を備え、庁舎の空調を賄う(写真:井上健)
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