ベテランには残業してもらっても、新人には時間外業務を極力させず、定時に帰宅してもらう――。日経ホームビルダー6月号の特集1「必死の採用、覚悟の育成」では、そんな涙ぐましい努力をしている工務店の取り組みをはじめ、若手の採用や育成に奮闘している住宅会社を取り上げました。

日経ホームビルダー2018年6月号の特集「必死の採用、覚悟の育成」(資料:日経ホームビルダー)
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 住宅会社の方から、売り手市場が続くなかで若手の採用が容易ではないという話をよく聞きます。同業の大手企業やほかの産業の中小企業に比べて処遇面で劣るケースが多い中小規模の住宅会社にとって、若手の採用と定着、育成は、経営上の最重要課題に持ち上がっているのです。

 特集では、冒頭で取り上げたような事例に加え、全国から大工志望の若手を募る事例、自前の学校を整備して人材を育成する事例、若手への技術伝承のために小規模な住宅会社同士が連携する事例など、多様な取り組みを紹介しています。

 住宅産業における人材育成の重要性などについて、特集記事では芝浦工業大学の蟹沢宏剛教授に意見をうかがいました。蟹沢教授は、建設産業における人材育成などに詳しい研究者です。

 詳しくは本誌を読んでいただきたいのですが、蟹沢教授の話の中で印象に残ったのは、この先AI(人工知能)の利用が広がっても、住宅施工の仕事についてはAIを用いた方法に置き換えることが難しいという視点です。

 現場での臨機応変な判断や調整が必要となる仕事が非常に多いというのがその理由です。つまり、AIの時代が到来しても大工をはじめ住宅施工の仕事には将来性があるということです。にもかかわらず、住宅会社が若い世代を確保するのは難しいのが実情です。

 先輩から厳しい指導を受けてきたベテラン世代から見れば、6月号で紹介する採用や育成の取り組みは「甘い」と感じられるかもしれません。私も大げさに言えば、その努力のさまには泣けてくるような思いを抱きました。

 それでも、昔ながらの育成方法しか選択肢がないようでは、今の世代に組織としての魅力を感じてもらうことは難しく、定着や育成どころか、就職先として選んでもらうことすら困難になります。

 今は若い世代が少なく、就職先を選べる時代です。若い世代が求める育成方法や就労条件に寄り添わなければ、単純に人が集まらないだけです。採用や育成の面では、過去の常識を思い切って捨て去り、記事にあるような取り組みを参考にしていただければと思います。

 6月号ではもう1つの特集を用意しました。特集2「コラボでトライ!省エネ住宅」です。断熱性能や気密性能に優れた住宅建設を、設計者と工務店が協力して実現した事例を紹介しています。

 省エネ性能は、これからの住宅性能競争のなかで主力となる領域です。既に大手の住宅会社はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)をはじめとした省エネ性能の高い住宅を提供できる体制にシフトしています。単に建設時点で必要な費用だけでなく、光熱費を含めたライフサイクルコストの観点から顧客に経済性をアピールする住宅会社は珍しくなくなってきました。

 特集2で紹介した事例からは、省エネ住宅のノウハウをそれほど持っていない住宅会社でも、設計事務所と組めば高性能の住宅を実現できることが分かると思います。今は十分なノウハウを持っていない住宅会社でも、省エネ住宅への取り組みを進めるヒントになるのではないでしょうか。

 さらに同号では、これまであまり取り上げていなかった先端技術を活用した住宅に関するリポート記事も掲載しました。「今度の“賢い家”は本物か」と題する記事で、AIスピーカーの登場によって広がりを見せているIoT住宅の最新動向と、IoT住宅に取り組むさまざまな企業の業界地図を独自にまとめています。

 建築・住宅産業では、技術者や技能者の人手不足や高齢化が問題視されています。先進的な技術の導入ニーズが急速に拡大しているのです。日経BP社では、6月13日に東京都内でカンファレンスイベント「テクノロジーNEXT2018/建築・住宅×IT・ロボット・AIが生む新ビジネス」を開催。新しい市場が生まれつつある現状と将来の展望を、建築・住宅や先進技術の分野における第一人者たちが集まって解説します。関心のある方は、足をお運びいただければ幸いです。

出典:日経ホームビルダー、2018年6月号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。