山梨知彦氏のプレゼン術にも共通点

 特集とやや関係する話が、今号の「人を動かすプレゼン 特別編」にも出てきます。“プレゼンテーションの名手”との呼び声が高い日建設計・山梨知彦常務執行役員に、プロジェクト実現の極意を聞いた記事です。

 何が特集と関係するのか──。山梨氏はこの記事の冒頭、「若い頃は建て主を説得するんだと前のめりになっていたが、いま同じことをすると暑苦しいだけだ」と言い、意識転換のきっかけとなったプロジェクトとして「飯田橋ファーストビル・ファーストヒルズ飯田橋」(東京都文京区)を挙げています。

 このプロジェクトは、木造密集市街地を再開発し、9階までの低層部に店舗と事務所、10階から14階に共同住宅が入る複合建築としたものです。2000年5月の完成まで、10年あまりを要しました。約50の地権者がいたため、設計者側の思いを一方的に伝えるだけでは合意を得るのが難しく、地権者たちとコミュニケーションを取りつつ、皆が納得して共有できる目標を見つける作業が必須となりました。

 阪神・淡路大震災の1カ月前、1994年12月に行った中間階免震の提案が突破口となりました。「共同住宅を鉄筋コンクリート造の壁式構造にすると、住戸のなかで個々の地権者の要望を取り入れやすい。オフィスで高い運用益を見込めるようにするには、無柱の大空間が必要だ。共同住宅とオフィスの階の間に免震層を設けて構造を分離すれば、両者の利益を最大化できる」。提案を見たデベロッパーの担当者から「これで合意を得られる」という言葉を得て、山梨氏は“皆が納得できる設計” に手応えを感じたそうです。

 先のマンション建て替え特集は、「選択に悩むマンションや団地の数が今後、急速に増加するのは確実だ。その危機的状況に対して建築の専門家は何ができるのだろうか」と締めくくっています。くしくも、山梨氏の記事はその1つのヒントになっているように思えます。

 飯田橋のプロジェクト以降、山梨氏は「プレゼンテーションはショーではなくコミュニケーションの場だから、建て主との意識共有を大切にする」という姿勢へと変わっていきました。

 プレゼンテーションというと「説得する」というイメージがありますが、山梨氏のほかにも“名手”といわれる設計者たちの話を聞くと、その肝は「目標の共有」や「合意形成への誘導」であることが分かります。デザインの能力さえ高ければ、魅力的な建築が実現できるというのは、過去の話です。いや、名建築家と呼ばれる人は、昔からそうした能力が高い人たちなのかもしれません

 「人を動かすプレゼン」シリーズは、これまでの記事をまとめた書籍「建築プレゼン 15の流儀」として10月24日に発刊する予定です。また、記念として、実務セミナー「人を動かす建築プレゼン特別講義 名手3人が明かす“勝つプレゼン”の極意」も開催します。山梨氏のほか、竹中工務店の原田哲夫氏、シーラカンスK&Hの堀場弘氏に、実際のプレゼン資料を投影しながら、そのポイントを解説してもらいます。ご興味を持たれた方はぜひご参加ください。

 本誌の内容紹介からは離れますが、宣伝ついでにもう1つ。

 書籍「名建築が生まれた現場」の発売を記念して、10月17日に東京・六本木ヒルズ内で対談イベントを開催します。ご登壇いただくのは、ともに海外経験を経て国内外で活躍中の2人。構造エンジニアでArup Japanシニアアソシエイトの金田充弘氏と、吉村靖孝建築設計事務所の吉村靖孝代表です。本を執筆した日経アーキテクチュア記者がナビゲート役を務めながら、海外の設計事務所という「真剣勝負の場」について2人に語っていただきます。海外仕込みのプレゼンテーションの考え方なども聞けることでしょう。


「名建築が生まれた現場」(日経BP)発売記念
金田充弘×吉村靖孝 対談イベント
「世界の事務所で味わう真剣勝負」

■2016年10月17日(月)19:00~20:30(開場18:30~)
■会場:TSUTAYA TOKYO ROPPONGI 2F 特設イベントスペース
■定員:50人
■参加方法: http://real.tsite.jp/ttr/event-news/2016/09/world-architecture-offices.html

 こちらにもぜひご参加ください。

出典:2016年10月13日
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