今号の特集は、「素材の挑戦」です。特集の冒頭では隈研吾氏に、近年のプロジェクトや進行中の新国立競技場(大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JVの一員として設計に参加)での素材の使い方についてインタビューしました。

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 隈氏は現代の日本を代表する建築家の1人といって過言ではないでしょう。けれども、これまでの“大御所”あるいは“巨匠”と呼ばれる人たちとはずいぶん違うなと感じることがよくあります。その1つが今回の特集のテーマである素材の使い方です。

 例えば、隈氏が近年、よく用いているのがアルミプリント材です。アルミ板に木目をプリントした外装材パネルを、「玉川高島屋S・C本館ファサード改修」(2010年)など、複数のプロジェクトで使っています。新国立競技場でも、この木目アルミパネルを「目線から離れていて、雨風が激しく劣化が心配なところで使う」とのことです。

2010年に竣工した玉川高島屋S・C本館ファサード改修でのアルミプリント材の使用例(大日本印刷のアートテック)。木目の大きさは検討を重ねた。東洋大学の新校舎のファサードにも全面的にアートテックを使う予定だ(写真:ナカサアンドパートナーズ)
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 さらっと話していますが、かなり大胆な発言です。聞く人によっては「それは木ではない」「フェイクで人を欺くのか」と批判したくなるかもしれません。これまで“巨匠”と呼ばれてきた建築家たちは、自身の代表作となるかもしれないプロジェクトでそんな素材をわざわざ使わなかったでしょう。

 なぜフェイク材を使うのか。隈氏はインタビューのなかでこういうロジックを展開します。

 「無垢の木の良さはもちろん分かるが、フェイク材でも、『木』を人に感じさせることができる。無垢な木材が使えない条件では有効だ。日本の伝統建築でも、ある素材を別の素材で置き換えるようなことを平然とやってきた。伝統建築の持つこうした柔軟性を、現代に取り戻したい」

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 そして、新国立競技場の屋根トラスに関してはこう言います。

 「木材と鉄のハイブリッドを考えている。木の中に鉄を入れることで、ほぼ木のように見せる方法を検討している。そういうハイブリッド材は恐らくこれまでに無いので、面白いのではないだろうか」

 「これまでに無いので、面白い」──。取材する側の実感として、この言葉が今の隈氏を突き動かし、隈氏を隈氏たらしめている原動力であるように思えます。それは素材に関してだけではありません。

 近年の隈事務所は、新国立競技場に代表されるように他の組織と組んで設計を進めるケースが増えています。以前のインタビューで隈氏に「単独で設計することへのこだわりはないのですか」と尋ねたところ、隈氏はこう答えました。

 「隈事務所だけで設計するとしても、僕は常に設計チームの中の一員という意識。他社と組んでもその意識は変わらない。単独で設計することにこだわりはなく、むしろ関わり方を広げていきたい」(2016年4月14日号特集「五輪後に勝つ!」より)。このときも隈氏は、誰もやっていないことほど面白い、というスタンスで取材に答えました。

 さらに日経アーキテクチュアの記事をさかのぼると、そうした“面白がり方”は、隈氏の世代観から生じた“反骨精神”とつながっていることも分かってきます。新国立競技場コンペで当選した直後のインタビューで、隈氏はこんなことを言っています。

 「建築に対して社会からネガティブな視線を受けるのは、僕らの世代の使命というか宿命のような気がしているのです。磯崎新さんや黒川紀章さんの世代、その後の安藤忠雄さんや伊東豊雄さんの世代では、建築に対して社会がポジティブでした。僕らの世代はどん底です(笑)。でも、どん底だからこそ上がる可能性がある。新国立競技場がうまくいけば、建築が再び浮上する可能性がある。そのきっかけになり得るプロジェクトだと考えています」(2016年1月28日号インタビュー「隈研吾の覚悟」より)

 生涯、タブーに挑み続けるやんちゃな巨匠──。そんな10年先、20年先の隈氏の姿も頭に浮かんできます。

 「最近の日経アーキテクチュアは隈氏の記事が多すぎる」。そうしたお叱りの声を聞くこともありますが、やはり今後も隈氏から目が離せそうにありません。

 隈氏の話に終始してしまいましたが、特集「素材の挑戦」では、ほかにも新発想の素材遣いの例を多数掲載しています。ぜひご覧ください。

出典:2016年6月23日
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。