今号(2018年5月24日号)の特集「稼げる保存」は、デービッド・アトキンソン氏のインタビューから始まります。金融アナリストから、伝統建築や文化財修繕を手掛ける小西美術工芸社の社長に転身。早くから文化財の「活用」を訴えてきました。

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デービッド・アトキンソン氏
1965年英国生まれ。87年オックスフォード大学日本学科卒業。米アンダーセン・コンサルティング入社。90年に来日し、ソロモン・ブラザーズ証券入社。92年、ゴールドマン・サックス証券入社。2007年まで金融アナリストとして活動。09年小西美術工芸社入社。10年より同社代表取締役。文化財や観光振興に関する多数の委員会などに参画している。著書に「国宝消滅」(16年、東洋経済新報社)、「世界一訪れたい日本のつくりかた」(17年、同)など(写真:日経アーキテクチュア)
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 同氏は、日本のこれまでの建築保存の手法を「冷凍保存」と表現します。

 「活用ゼロで、補助金に頼った『冷凍保存』は、人口が増え、国が豊かだった頃の考え方だ。人口が急減し、財政が厳しくなる今後は、これまでのような保護行政ではやっていけない。保存していくためには、積極的な活用に動かざるを得ないのが、これからの日本だ。

 文化財に携わる人たちは文化に経済を絡めることを嫌う傾向があるが、そもそも文化というのは、経済合理性の上に成り立っている。お金のある人たちが親しむもので、余裕のない人は文化なんて言っていられない。だから、文化に対する経済合理性の否定は、自己否定しているようなものだ」(アトキンソン氏)

 「冷凍保存」という表現に、「なるほど的を射ているな」と感心しました。1つには「調理しておいしくいただく」よりも「できるだけ長く元の状態をキープする」ことを重視するという意味において。そして、いかに冷凍技術を高めたとしても、当初の鮮度はじわじわと失われていくという意味において。

 アトキンソン氏の話で、もう1つ筆者が「なるほど」と思ったのは、施設の入館料をできるだけ高く設定すべきだ、という提案です。当該部分の一問一答を引用します。

国の重要文化財指定を受けた建物で、保存と活用のバランスが取れた好例を挙げると?

 残念ながらまだない。良い方向に向かっている例としては、国宝の「赤坂迎賓館(迎賓館赤坂離宮)」(1909年竣工、設計:片山東熊)がある。重要なのは、単に一般公開するようになっただけでなく、かつてあった家具などを置き、実際の使われ方を体感できる形で見せている点だ。参観料も、個人の大人で、本館・主庭が1000円、さらに和風別館も参観する場合は1500円と、高めに設定している。

迎賓館赤坂離宮の外観(写真:磯 達雄)
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谷口吉郎が設計した和風別館。村野藤吾が迎賓館赤坂離宮を改修した年(1974年)に、新築された(写真:磯 達雄)
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従来の感覚からすると、割高な印象を受ける。

 私は、迎賓館(迎賓館赤坂離宮、京都迎賓館)のアドバイザーを務めており、一般公開では参観料を4ケタにするよう内閣府に進言した記憶がある。

 従来の文化財のように、空っぽの箱を見せるだけでは4ケタは取れない。それに値する見せ方が不可欠で、実際に使われていた様子を見せているのはそのためだ。

参観料を高めにした狙いは?

 赤坂迎賓館では今、長年の懸案だった「朝日の間」の改修をしている。朝日の間は、天井の絵画などの劣化が進み、改修を必要としていたが、予算が付かなかった。参観料は高めでも、見せ方を工夫したことで多くの人たちが訪れている。年間に何億円もの収入を挙げるようになり、予算が付いた。

迎賓館赤坂離宮の「朝日の間」。現在は改修工事中(写真:磯 達雄)
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 もともと経済の専門家だったアトキンソン氏らしい指摘です。建物の価値を安売りせず、できるだけ高く売ることを目指せば、金額に見合うサービス提供のために日々、努力せざるを得ない。そして、その収入が補修や耐震補強、次の仕掛けの投資財源となる──。新たな価値の創出で「稼ぐ力」を高める具体事例については、ぜひ特集をご覧ください。

<特集目次>

 そして、この特集にやや関連する話題をもう1つ。

 菊竹清訓氏の設計により1966年に竣工した都城市民会館(宮崎県都城市)で、再び「保存か解体か」の議論が起こっています。詳細は改めてリポートする予定ですが、都城市は、今年6月から8月の間に「保存活用等に関する民間を主体とする提案」を受け付けるとしています。市のウェブサイトには、「提案は、『保存活用の方針』でも差し支えないが、その主体の財源(改修費だけでなく維持管理費も含む。)確保の確実性や提案内容の実現の確実性については、厳格に審査する」とあります。

 行政がこうした活用提案を民間に求めるようになった、ということに時代の変化を感じます。注目していきたい話題です。

出典:日経アーキテクチュア、2018年5月24日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。