ザハ・ハディド・アーキテクツのデザインによる新国立競技場の整備計画が白紙撤回されたことが、地方の公共建築プロジェクトに思わぬ影響を及ぼしています。進行中のプロジェクトであっても白紙に戻せるという点で新国立問題が象徴的な前例となり、個々の公共建築プロジェクトへの反対運動が勢いづいているのです。

 同じ公共事業でも、土木インフラは20年以上前から手厳しいバッシングの洗礼を受けてきました。1995年に完成したビッグプロジェクト「長良川河口堰」(三重県桑名市)は、当時の法手続きに照らせば問題はなかったものの、その必要性やプロジェクトの進め方が社会から大きな非難を浴び、大型土木インフラの整備プロセスが変わるきっかけとなりました。

 公共建築に対する最近の反対運動も、その必要性やプロジェクトの進め方を問題視しており、捨て置けません。最近では、公共建築の賛否を住民投票で問う例が増えています。愛知県小牧市の新図書館や茨城県つくば市の総合運動公園の賛否を問うた住民投票では、反対票が賛成票を上回り、進行中だった整備計画が白紙になりました。

 日経アーキテクチュア2016年2月25日号の特集「公共建築、未曽有の逆風」では、いまなぜ公共建築へのバッシングが強まっているのかを明らかにし、今後の公共建築の在り方を考えました。ぜひご一読ください。

日経アーキテクチュア2016年2月25日号特集「公共建築、未曽有の逆風」から
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 明らかに公共建築が満ち足りていなかった高度経済成長期と違って、現代ではある程度の公共建築が整備されています。人口減少期を迎えていることもあり、その必要性について市民の意見が分かれやすくなっているのが実情です。成熟社会にあっては大多数が賛成という状況こそ、イレギュラーと考えるべきかもしれません。

 賛否が分かれやすく、意見が多様化している現状を踏まえ、いかに落としどころを探っていくか。現実問題として皆が納得する整備計画をつくることはできないかもしれませんが、皆が納得できる整備プロセスを工夫することはできるはずです。サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)を含め、公共建築に対するさまざまな意見をいかに拾い上げ、合意形成を図っていくかが問われています。

 老朽化した建物への手当て、人口減少を見据えた都市機能の集約、将来にわたる維持・運営体制の整備など、公共建築はいろんな意味で曲がり角を迎えています。行政に明確なビジョンと強い意志がなければ、多額の税金を投じて整備する公共建築が陳腐で魅力の乏しいものに陥るおそれもあります。

 我々は一日も早く、右肩上がりの経済や人口を前提した仕組みを改め、成熟社会に見合った街づくりや公共建築づくりの方法論を獲得する必要があるわけです。日経アーキテクチュアはこれらの問題について、継続的に追いかけていきたいと考えています。

出典:2016年2月25日
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