小さな関わりで「当事者」感覚

 議会への説明と並行して、市民ワークショップも開いた。08年4月初頭には、地元の大学の建築学科学生を集めて縮尺50分の1の建築模型を製作。4月下旬には市民を対象に、この模型を用いて空間の使い方を考えるワークショップを実施した。

 ワークショップには隈氏も顔を出し、参加者たちに気軽に声をかけた。「小さな接点でいいから幅広い市民が関われる機会をつくり、一人でも多くの市民に当事者意識を持ってもらうことが大切。そして、そういう場には本人が顔を出すことが重要だ」

 ワークショップには、市議会議員も様子を見に来ていた。「狙ったわけではないが、市民と設計者がわいわいと仲良く話している光景は、市議会に対する何らかのアピールになったのかもしれない」

〔写真2〕学生とともに模型を製作
50分の1模型を学生と製作し、それを用いながら市民と使い方を考えた。模型を使ったのは、「言葉を出し合いながら話を進める方式は、話が抽象的になりやすい」(隈氏)から。ファシリテーターは建築ジャーナリストの中谷正人氏に依頼した(写真:隈研吾建築都市設計事務所)

 やがて動きが出た。その年の暮れ、議員の有志十数人が東京・港区にある隈研吾建築都市設計事務所を訪ねてきた。事務所で何時間か議論した後、夜は居酒屋へ場所を移して話を続けた。特別な出来事があったわけではないが、腹を割って話をした。このとき、「いけるかなという空気の変化」を隈氏は感じた。

 09年1月8日の議員評議会で、議場1階に配置した基本設計案が正式承認された。

 後編(日経アーキテクチュア2月25日号)では、これまでの数々の経験も含めて、隈流プレゼンの極意を分析する。