「先例」を示して安心感与える

 それでも隈氏は、計画に託した思いをいつもどおりに述べた。「ナカドマに面したガラス張りの議場は、“開かれた議会”の象徴になる。これは、議会にとっても市民にとっても重要な意味を持つ。もともと長岡市議会は開かれた議会を標榜していたので、目指す方向に違いはないという自信はあった」

 しかし、喚問は1回では終わらなかった。同年9月に再び議員協議会へ。森民夫市長の支持もあって、2度目の喚問でも隈氏から妥協案を示すことはしなかった。議場を2階に配置した場合と比較しながら1階配置案のメリットを説明〔図2〕。2階配置案に比べて3階にある議会関係諸室のセキュリティーが向上すること、1階ナカドマの面積が広くなることなどを挙げた。

〔図2〕「専門外」の目線で説明
議場を1階に配置するメリットを説明した議員協議会用の資料。色分けした図面とフキダシを使い、議会や市民のメリットに絞って示している(資料:隈研吾建築都市設計事務所)

 同時に、海外の先例も紹介した。吹き抜けを巡るらせん階段から議場を見下ろせるロンドン市庁舎や、ガラスのドーム状になったドイツ連邦議会〔写真1〕などだ。「前例の少ないことには誰しも不安を抱く。世界の建築が向かう方向を指し示し、その流れに沿った計画であることを伝えれば相手も安心できる」(隈氏)

〔写真1〕海外の「先例」を示す
ガラスドーム内のらせん状スロープから議場内を見下ろすことができるドイツ連邦議会議事堂。ノーマン・フォスターの改修設計で1999年に完成した(写真:日経アーキテクチュア)

 議員協議会の後、隈氏は待った。当初の予定では、実施設計を同年10月から始めなければならない。事務所スタッフはジリジリしながらも、できる範囲の設計作業を前倒しで進めた。「何事もその場ですぐ決まるとは限らない。思いのたけを伝えた後は、相手に考える時間を与え、じっと待つことも大切だ」