所在地=群馬県富岡市富岡1-1 設計=オーギュスト・バスティアン 竣工=1872年 交通=上信電鉄・上州富岡駅から徒歩15分(航空写真:群馬県)

 建築巡礼の連載は今回からプレモダン編へと突入する。最初に取り上げるのは、明治5年(1872年)に完成した富岡製糸場だ。

 この建物は、明治の新政府が輸出品となる生糸の生産を全国で展開するためにまず建設したモデル工場である。西洋式の製糸機械を導入した工場づくりのために、政府は横浜にいたフランス人のポール・ブリュナを雇う。当時30歳という若さだった。

 ブリュナは工場の敷地選びから関わった。原料の入手しやすさと、広い敷地を得られることから、上州の富岡が選ばれたのであった。

 工場は1872年から創業を開始。製品の質は海外でも高く評価されたが、経営的には苦しい状況だったという。1893年には三井家に払い下げられ、さらに1902年には原合名会社へと所有者が変わる。そして1939年からは片倉製糸紡績株式会社が受け継ぎ、1987年まで操業した後、富岡市に譲渡された。

(イラスト:宮沢 洋)

 現在、富岡製糸場は、養蚕農家の田島弥平旧宅や養蚕教育機関の高山社などと合わせて、世界遺産の暫定リストに載っている。既に日本政府からユネスコの委員会への推薦が済んでおり、あとは今年の夏に行われる審査の結果を待つばかりだ。

 ちなみに工場が世界遺産に登録された例には、ダーウェント峡谷の工場群(英国)やフェルクリンゲン製鉄所(ドイツ)、グロピウスが設計したファグスの靴工場(同)などがある。富岡製糸場が登録されれば、日本の工場建築としては初となる。