クレーンで一気に撤去できなかった理由は

 JR山手線の終電から始発までの時間は短く、夜間工事とはいえ実際の作業時間は数時間しかない。「一括かつ短時間で撤去できる工法を選んだ」とJR東日本の担当者は説明する。

86年間いた場所を離れ、動き始めたトラス橋(写真:ケンプラッツ)

 当初はトラス橋をクレーンで一気に吊り上げて撤去する方法も考えた。しかし、橋の重さが120トン超と重く、現場に搬入できるサイズのクレーンでは作業が難しかった。トラス橋を複数に分割してからクレーンで吊り上げれば可能だが、「JRの線路上でトラス橋を切断したり、その結果、橋を不安定な状態にしたりするのはリスクが大きい」(JR東日本)と判断した。

 さらに、JR山手線を斜めにまたぐトラス橋の形状も、クレーンによる撤去を難しくした。

 一般的な橋は川や道路、鉄道などを直角にまたぐため、上から見た平面形状は長方形となっている。ところが、撤去したトラス橋は平行四辺形。クレーンで吊るにしても、重心の位置を調整するのが難しい。しかも、度重なる補強や補修によって、トラス橋のバランスは複雑になっていた。

 こうした条件のなか、最も確実に施工できると考えたのが、工事桁を使った引き出し工法だった。JRの線路上空に工事桁を渡して、トラス橋の重さを4隅に配置した台車で受け替え、線路の敷地外まで水平移動させるというものだ。橋を新設する際の工法とは逆の手順で撤去工事を進める。トラス橋のバランスを崩さないように、台車の位置と元の支承があった位置を同じにするなど、安全対策には万全を期した。

 「重量のあるトラス橋を短時間でバランスを取りながら移動させる難易度の高い工事だった」とJR東日本の担当者は振り返る。工事の“予行練習”もできないため、事前のシミュレーションが重要となった。本番の工事では、工事桁のたわみなどが計算結果通りになっているかどうかなどを確かめながら、作業を進めた。

 移動を終えたトラス橋は、旧東横線の高架橋上で順次、解体される。解体後は鉄スクラップとして溶かされ、再び鉄鋼として生まれ変わる見込みだ。

移動開始直前のトラス橋。南側から撮影(写真:ケンプラッツ)

現場近くの歩道橋では、JR東日本や建設会社の工事関係者だけでなく、周辺の住民などもトラス橋の撤去を見守った(写真:ケンプラッツ)