「建築をつくることが目的じゃない。目的に対して建築の手段をどう使うかを考える」――。

 日本建築家協会(JIA)関東甲信越支部住宅部会は5月20日、40周年記念連続シンポジウムを開催した。そこに登壇した西田司さん(オンデザインパートナーズ代表)の言葉だ。

 西田さんは、多様性と柔軟性を重視した住宅や商業施設、まちづくりなどを手がけている。今回は「建築をひらく」を題材に、仕事の進め方について講演した。

住まいの設計(扶桑社)の前編集長の鈴木康之さん(写真左奥)と対談する西田司さん(写真右)。司会は、JIA関東甲信越支部住宅部会40周年記念事業統括の鈴木利美さん(写真:ケンプラッツ)

 私はこれまで、実体験したことのない空間を建築家が設計するのはどだい無理があるのではないか、という思いを抱いていた。「料理したことがないのに使いやすいキッチンを設計する」「アパート暮らしなのに豪邸を設計する」「外国に住んだことがないのにカリフォルニア風やプロヴァンス風の住宅を設計する」――。

 こうした疑念に対し、西田さんの言葉は胸にストンと落ちた。

 発注者から依頼を受ける際、いつも設計の与条件が決まっているわけではない。発注者と一緒になって、いちから与条件を考えなくてはならない場合もあるだろう。

 でも、やりたいこと、困りごと、悩みごとなどをもろもろ聞き出して、それらを解決することができれば、発注者の望みは叶えられる。もしかすると、それはハードの建築をつくることにはならないかもしれない。状況づくりや場づくり、人づくり、あるいは人や組織をつなげることかもしれない。

 「ヒアリングと対話から導き出される要素を積み上げ、構築し、形にしていくのが建築家の職能。そのような職能は他の職業ではあまり見かけない。それだけに、社会的には非常に重要となる。そこに建築家の役割、価値があると思う」。西田さんはこう語る。

 建築家の職能とは、そういうことなのではないだろうか。類似例や資料をあさって実体験したことのない空間を想像しながら設計するのではなく、発注者の懐に飛び込んで心の内をじっくり聞き出す。そして建築の専門家として、知識と技術を駆使して解決策を提示する。「建築をつくる」ことだけが解決策ではない。

 発注者のお金を使って自分のつくりたい建築を実現したり、逆に発注者の言いなりになったりするのは、まったく違うと思う。


 JIA関東甲信越支部住宅部会の40周年記念連続シンポジウムのテーマは、「建築家の役割、価値を今、考える」。設計・監理業務の減少が予測される中、「いかにして建築家は創造的に業務を行い続けていくのか?」「社会における建築家の役割、価値とは何なのか?」を考えます。私もアドバイザーとして協力しています。次回はブルースタジオの大島芳彦さんを迎え、7月9日に開催します。概要はこちら