ハッピーな風景に導かれて 個人が都市にコミットする

嶋田 法律や制度もそうです。今の時代にそぐわなくなってきた部分をちょっと変えてやるだけで、まちに元気が出てくると思います。

 最近感じるのは、1つのエリアのことを真剣に考えることが、法律の仕組みを変えるくらいの、大きな影響力を持つことがあるということ。

 先日も国交省の外郭団体に呼んでいただいて、「まちづくり会社がリノベーションプロジェクトを行う際の資金調達に関する課題を教えてください」と言われたんです。僕らのような小さな会社には、ファイナンスがつかない。それをどうしたらつけられるかと、国は真面目に考え始めているんです。

馬場 僕はこれまで用途変更で死ぬほど苦労したのですが、その経験を通じて、日本には検査済証がないために合法的なリノベーションができない建物が山ほどあるということ、それが決定的な足かせになっていることが分かってきました。それを国交省の副大臣に直訴に行ったのですが、この前ちゃんと通達が出ましたからね。その時に持っていったのも、佐賀の小さなボロ物件の事例です。部分の抱えている問題が、全体を物語っているんですよね。

嶋田 僕らも北九州の小さな事例ばかり集めて持っていきましたが、国交省の課長さんが「これは政策の宝庫だな」とおっしゃっていました。

馬場 銀行の融資がつかないから、今はデザイナーや建築家たちと、ファンディングのシステムをつくろうとしています。それをちゃんと国交省が聞いてくれるからね。面白い時代にはなってきました。

 これまでの建築設計というのは、ある制度の中で模索していた。それら法律や制度をアプリオリなものだと、与件だと思っていたんですね。でも僕らは与件をつくることが仕事だと。未来に向けて変えるべきシステムや制度があるとするならば、そこから変えていくのが仕事だろうと思います。

嶋田 僕らもプロジェクトを進める上で制度とぶつかって不都合が起こった時は、「その制度を変えてください」と言っていますね。

馬場 戦後の人口増加の枠組みの中で決められた制度では、不都合だらけだということは、みんな分かっていますよね。でも明治維新みたいな革命が起こりにくい時代だから、部分から1つずつ変えていくしかない。

 その時に「変えろ」と声高に叫ぶのではなく、新しいハッピーな空間を提示して「これを実現するにはどうしたらいいですかね?」と投げかけると、変えていきやすい。大きな社会的変化を起こすトリガーとして、まず空間の変化を先に提示するという方法は、案外やりやすいのではないかと思います。

馬場正尊氏、Open Aの共著『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』。公共空間を楽しく使いこなすための実践、アイデア、理論を整理している(資料:Open A)

嶋田 馬場さんが書かれた『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』(学芸出版社、2013年)もそうですよね。

馬場 『POST OFFICE―ワークスペース改造計画』の時から同じなんです。全部が実現するとは思っていないけれど、とりあえず風景を提示すること。それは、建築を学んだ人なら得意だと思いますよ。

嶋田 小倉の小さな商店街で、来年アーケードを撤去するんです。撤去した後、どうやってまちを楽しく使うか。リノベーションスクールで提案された「通りを緑のある広場にしたい」というプランをもとに、みかんぐみの曽我部昌史さんが絵を描いてくれました。通りで経済活動が行われ、その収益によってまた緑が維持されていく仕組み。前例のないことですが、行政の人に相談してみたら「できるかも」と。

 このプロジェクトの一環で、通りに接した民間の土地にコンテナカフェをつくっているのですが、市役所の人たちに個人的に出資してくれるようお願いしたんです。規制をうまく緩和できなかった時にはカフェも流行らないから、一蓮托生ですよと(笑)

馬場 恐ろしいこと考えるね…(笑)。でもそこで儲かれば配当があるんだから、普通の経済活動だよね。

嶋田 はい。行政マンとか民間とか関係なく、一人の市民として、まちづくりに関わればいいと思うんです。

馬場 都市に対する個々人の具体的なコミットの集積こそが、一番のエリアの再生ですよ。これまでみんな、その関係性を断ってきたわけだから。ここにお店を持っているけれど別の場所に住むとか、市役所の人は「まちが活性化しない」と言いながらビルの5階から見下ろしているとか、みんながまちを客体として見ていた。

嶋田 都市に主体的に関われるような仕組みをつくればいいと思います。立場はとりあえず置いておいて、個人で関わればいい。

馬場 一人ひとりが変化のドライバーであるという考え方ですよね。都市と個人との関わりが切れてドライになったものを、もう一度、現代的な方法で再構築する。コミットメントの方法論をデザインするというところに、次の時代のまちづくりや都市計画のヒントがあるのかもしれません。

嶋田 僕は、みんなが同じ方向を向けるプロセスをデザインするというのが、新しい建築家の仕事じゃないかなと思っています。

馬場 みんなが共有できるゴールとしてハッピーな絵をまず提示して、そこに到達するにはどうしよう? と投げかけてみる。荒唐無稽ではなくて、ぎりぎり到達できそうなゴールを提示するのが大事。盛り上がっていると、行政の人もダメですと言いにくいから(笑)、どう実現しようかという方向に話が進んでいく。

 それは、ハッピーな風景に向けてのインボルブ(巻き込む)システムだと思います。


※嶋田洋平氏が、著者の一人および企画・監修側(HEAD研究会フロンティアタスクフォース)として関わっている新刊『2025年の建築「七つの予言」』を日経BP社より発行しました。松村秀一教授を主著者に、青木純、内山博文、大島芳彦、小渕祐介、小嶋一浩、島原万丈、清水義次、清家剛、関根真司、瀬戸欣哉、曽我部昌史、林厚見 、三浦丈典、吉里裕也の各氏による議論を収録しています。下記をご参照ください。

[新刊]2025年の建築「七つの予言」

企画・監修:HEAD研究会フロンティアTF
著者:松村秀一ほか
発行:日経BP社 9月22日発行、2484円

※構法から見る建築の未来像を軸に、「場をつくる」新しい仕事の姿などを論じる新著(共著)

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出典:2014 Autumn 特別編集版 22~27 Vol.029 価値を高めるリノベ・改修・維持管理
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。