「最小限リノベ」という 団地再生のプロトタイプ

嶋田 北九州市でご一緒している仕事の城野団地のコンペの時は募集要項が発表されてすぐ、馬場さんから電話がかかってきました。

馬場 これは嶋田さんを押さえたら勝ちだなと思って、すぐ電話したんです(笑)

嶋田 最初の打ち合わせで馬場さんが言ったのが「最小限リノベーション」。手を加えることは幾らでもできるけれど、城野というエリアで払える家賃には限界がある。その限られた家賃の中で最大限の効果を生む方法を考えて、それが今後の団地のリノベーションのプロトタイプになったら面白いんじゃないかと話しました。

城野団地リノベーションプロジェクト。Open A・らいおん建築事務所・北九州家守舎JVと、都市再生機構(UR)九州支社が共同で取り組む。写真はらいおん建築事務所が担当した「ダブルルームプラン」(写真:Open A・らいおん建築事務所・北九州家守舎JV)

馬場 今後縮退する社会の中で、デザインに投資できるような空間は首都圏の都市部の、ほんの一部です。だから設計する側が投資を最小限に抑えて、住み手自身が使いこなせるような空間をつくり、彼らに委ねる、というところに行くしかない。新しい住み手や使い手は趣味もよくなっているし、自分で自分の空間をつくろうというメンタリティはどんどん強くなっている。だから、いかに何かをやりたくなる、コミットしたくなる空間をつくれるか。空間が「やろうよ」と言っていないといけない。それを思い切り試みよう、というのが城野団地でした。

嶋田 あとは、団地だけで考えない。やっぱり人は住むだけじゃなく、働くことや学ぶこととセットで生きているのだから。小倉の周辺に住んで、小倉の中心部で働く。団地だけではなくまちの中心部とつないで考えると、新しい暮らし方が提案できると思いました。それは馬場さんが稲村ヶ崎R不動産、房総R不動産で提案してきた「暮らし」に通じていると思います。

馬場 生活の全体像を提示するということですね。

嶋田 僕は、すごく近いエリアの中で働いて暮らすということが、これから若い人たちの欲求になっていくと思う。行政側の政策である「コンパクトシティ」とも合致している。城野団地はそういう暮らし方を提案できるのではないか、とUR側に強く伝えました。

──城野団地のリノベーションは、これまで馬場さんが手がけてこられた団地リノベーションの中でも最小限なのでしょうか。

ばば・まさたか Open A代表、東北芸術工科大学准教授、建築家/1968年佐賀県生まれ。早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て2003年Open A 設立。東京R不動産や、東京のイーストサイド(日本橋や神田)の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント『CET(セントラルイースト東京)』など、建築設計を基軸にしながらメディアや不動産などの分野で横断的に活動している。(写真=鈴木愛子)

馬場 ええ。『観月橋団地』(京都市、2012年)などに比べても最小限ですね。URの団地には、今の時代にはそぐわない標準仕様も残っているんですね。さらに予算は200万~250万円くらいに抑えなければいけない。僕は幾つか団地のプロジェクトを手がける中で、どこにお金をかけてどこは思い切り手を抜いたらいいか、つまり選択と集中のポイントが見えてきていました。最小限というのはその選択と集中を明快に行うという意味です。その先には、時代に合わなくなった標準仕様が徐々に変わっていくことも期待しています。

嶋田 その標準仕様自体も、高度経済成長時代にいかに早く安くつくるか、というつくり手の論理で生まれたものなんですよね。民間と連携しながら市場で闘えるものをつくろうとしているのに、なぜ変えられないのか。

馬場 でもカスタマイズや最小限のリノベーションといったことに最初に挑戦したのは、実はパブリックセクターなんですよ。民間のデベロッパーはまだ、どこもやっていませんからね。

 住み手の視点に立ってあらゆることを変えていくと、自動的にそれがマーケットを開拓することになるし、新しい住み方を提案することになる。URが社会的に背負ってきた責務を再定義することができる、すごくいいチャンスなんですよね。城野団地は、そのいいモデルになり得ると思います。

城野団地リノベーションプロジェクト。全16棟・268戸の団地の空き住戸を対象に「できるだけ残す」リノベーションを実施 上2点:Open Aが担当した「テラスハウスプラン」。専用庭付きの2階建て、キッチンをアイランド型としている 下:同「小上がり+ロフトプラン」(写真:Open A・らいおん建築事務所・北九州家守舎JV)