「IZAMA(三井ガーデンホテル 京都新町 別邸)」(京都市)

古い蔵を象徴的に保存活用したレストランだ。蔵はリノベーションして個室とし、新築建物内に連続して設けられたメーンの食事スペースは、蔵から発想を広げた漆喰壁が内装のポイントになっている。

 京都市内に今春オープンした「三井ガーデンホテル 京都新町 別邸」は、旧・松坂屋京都仕入店の跡地に建つ。以前はここに木造家屋が複数の棟に分かれて建っていたほか、土蔵が3棟並んでいた。このうち最も道路側の1棟を保存し、ホテル内の和食レストラン「IZAMA」の一部に活用するという構想から、全体の建て替え計画が進んだ。

 レストランはこの蔵に隣接し、新築した建物1階の道路沿いに位置する。店内の中央には朝食時のビュッフェ台を兼ねる長さ7.8mの大テーブルが置かれ、薄い漆喰壁が店内を分節する。これによって周囲のテーブル席は、半個室のような落ち着いた雰囲気を得ている。

 この漆喰壁は厚さが8mm。内装設計を手がけた永山祐子氏は、「蔵はこの場所の特徴的な要素になっている。その白い漆喰壁を店内に連続させて調和をとるに当たり、隣り合う風景がシャープに切り取られるように、壁は極限まで薄くしたいと考えた」と話す。このアイデアを実現するために、壁下地には厚さ4.5mmの鉄板を採用。天井から吊って設置することにしたが、躯体側が想定していた荷重条件を超えていた。そこで、2階の床スラブから鉄骨下地をぶら下げて鉄板を吊るし、その支点を多く設けて荷重を分散させるとともに、鉄板自体もパンチング加工を施して軽量化。その上で両面に漆喰を塗った。

厚さ8mmの漆喰壁に設けた開口部が、中庭の風景を切り取って絵のように見せる。「この開口部から見える風景をつくってほしいと荻野さんに伝えた」と永山氏。店内の床は天然石一分混入墨モルタルふき取り仕上げ。各テーブルの照明シェードは、和食器との相性を考慮して磁器製を選んだ。椅子も永山氏のデザインで、庭への眺めを邪魔しないように、また、和食の空間なので椅子の存在感をできるだけ消すために、その背がテーブルの高さを超えないように設定した(写真:生田将人)

蔵だけでなく中庭との関係も重視

 個室として利用される蔵は、黒漆喰と古色塗装で明度を抑えた空間に、吹きガラスを用いた照明を64個吊るしている。掛子塗りの扉の向こうにたくさんの光が浮かぶ様子が店内の客の目に入ることで、自然と蔵の存在を感じさせるようにした。

 この蔵とレストランとの間の坪庭は、永山氏の依頼によって造園家の荻野寿也氏(荻野寿也景観設計)が手がけた。蔵の周りに置かれた石は、この敷地で以前使われていたものだ。また、レストランからはホテルのロビー側にある中庭も見える。永山氏は蔵だけでなく、この中庭との関係も重視してプランを練り、作庭は荻野氏に任せることを事業主の三井不動産に掛け合った。

 レストランのファサードに設けられた糸屋格子は、この界隈に江戸時代から繊維関係の商家が多かったことにちなむ。解体前の建物にはなかったが、ホテル全体の建築設計を担当した竹中工務店大阪本店設計部の小林浩明氏は、「京町家を正当に再現し、端正な表情にしたいという全体計画から、明治初期の写真を見て糸屋格子の設置や出入り口の位置を決めた」と話す。この格子越しに店内から通りを、あるいは通りから店内を眺めるのも、京都ならではの楽しみだ。その時にサッシ枠が邪魔にならないように、サッシは格子のピッチに合わせてサイズを変えている。

蔵は敷地の北西の角に建っている。再利用に当たり、構造材の接合部を金物で固定するなどの補強工事を施し、漆喰壁や屋根瓦の補修を行った。これに隣接する京町家のファサードの1階がレストラン。糸屋格子はけんどん式で、祇園祭で山鉾が目の前を巡行する時などは格子を外せる。京町家は連続性が大切であることから、このファサードの端部は切妻型で漆喰塗り。また、軒を支える部分は木造で、腕木を出すなど軸組本来の姿に沿って再現した(写真:生田将人)
蔵は8人席の個室として利用されている。内部は2層だったが、床を撤去して吹き抜けにした。吹きガラスの光が映り込むように、テーブルの天板はピアノ塗装を施している(写真:生田将人)

左:「漆喰は紙のように柔らかな白さがあり、さらに壁が紙のように薄いことで、空間が瞬間的に切り替わる」と永山氏。ステンレスメッシュの間仕切りは、簾のように上から吊るしてある 右:道路側からも、席に座ると中庭を見通せる。「ろうそくの光のような、暖かい反射光にしたかった」という大テーブルは、天板に真ちゅうの表面処理剤を採用。総支配人の大野和也氏は「レストランやホテル全体のデザインの特徴はスタッフ全員で知識を共有し、ホテルの個性としてお客様への情報発信に努めている」と語る(写真:生田将人)

蔵の内部に光が浮かぶ様子は店内から常に見える。蔵の出入り口前は、荻野氏が以前この敷地で使われていた石を再利用しながら作庭した(写真:生田将人)
ホテルの中庭は3面がガラス張り。この写真はレストラン側からの眺めで、右手はロビーに面している。奥は宿泊客専用のエレベーター前で、大浴場の入り口も近い。それぞれからの見え方を考えて木や石などが配置してある。左手は高さ15mの漆喰壁(写真:生田将人)

朝食時は大テーブルにビュッフェ料理がこのように並ぶ。テーブルの上の照明は、料理を選ぶために往来する人と、道路側の席に座る人の視線が交わらないように、デザインと高さを検討した(写真:生田将人)
IZAMAと隣り合うホテルのロビーエントランスには、旧建物の火袋(台所の煙だまり)の木組みを移築。大黒柱以外の柱は新設した。「基本構想の段階で、蔵、火袋、外観、中庭などは当初から建物の演出要素として保存再生する計画だった」と竹中工務店の小林氏は話す(写真:生田将人)

●IZAMA

  • 所在地:京都府京都市中京区新町通六角下る六角町361番
  • 地域・地区:商業地域・準防火地域
  • 用途:飲食店
  • 工事種別:内装
  • 構造補強工事:蔵のみ
  • 確認申請:無
  • 対象面積(延べ):236.87m2(うち厨房84.2m2)
  • 竣工:2014年
  • 内装設計:永山祐子建築設計
  • 内装施工:イシマル
出典:2014 Autumn 特別編集版 42~46 Vol.029 価値を高めるリノベ・改修・維持管理
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