──今後の進展のために、どのような課題があるのですか?

小林 日本でエリアマネジメント組織を運営する際に我々が参考にしてきたのが、カナダや米国では1980年代後半から、英国では2000年代後半から進展しているBID(Business Improvement Districts)という仕組みです。BIDの場合、特定のエリアの地権者や事業者に対して自治体が一種の目的税を課税して、徴収した税金をエリアマネジメント組織の活動資金に充てることができます。

 税金を使うので、BID組織は公共性のある活動を行うことが前提になります。米国などで大きな目玉となったのは、まちの清掃と防犯です。まちが汚く、治安が悪いという状態を解決する目的でエリアマネジメント組織が次々と立ち上がりました。90年代にニューヨーク市の治安がよくなったのは、60を超える数が誕生したBID組織の活動による成果です。

 一方、BIDを発展させてきた欧米の各都市と比較し、日本のまちは清潔ですし、治安もいい。清掃と防犯を目的として会費を徴収するというのでは、受け入れてもらうことができません。では公共性の高い活動は何かと言えば、日本は災害大国ですから、やはり防災、減災が大きなテーマになると思います。

──逆に見ると、東日本大震災の前はエリアマネジメント活動のなかで防災は前面に来るテーマではなかったのですか?

小林 行政が担うものだ、という意識が強かったと思います。東日本大震災などで明らかになったのは、意思の確定に時間がかかるので、非常時に行政だけに頼るのは無理があるということです。

 例えば、都内のある区は、各事業者に食糧などの備蓄をあらかじめ要請していたのに、震災が起こって帰宅困難者が出た際にそれを使うことができませんでした。区民のための備蓄という位置付けなので、ほかの地域から働きに来ている人たちにも配ってよいかどうかを判断できなかったのです。神奈川県のある市は、大人数に対応する一次避難場所を湾岸地域にしか確保できないという事態に陥りました。津波の心配があるので、結局はデパートなどの各ビルが個別に受け入れています。

 こうした事態を受け、エリアマネジメント組織がリードして地域ネットワークを構築し、災害時に対応できる体制をつくる気運が高まってきました。先行してモデルのようになっているのは、東京の六本木ヒルズにおける取り組みです(Cを参照)。エリアマネジメントのマニュアル改定の様子を見ていると、追随して名古屋駅地区街づくり協議会、We Love 天神協議会などで防災の比重がかなり大きくなっているのが分かります。大都市の多くは海と隣接する場所にあり、すなわち津波・洪水や地盤のリスクが高いということです。安全・安心は、どの地方の大都市でも重要な課題になります。

【C】先駆的な防災拠点事例「六本木ヒルズ」
六本木ヒルズの場合は統一管理者の森ビルが「タウンマネジメント」を担い、これを周辺の「エリア」に広げる、という考え方を取る。地域の防災拠点となる「逃げ込めるまち」を標榜し、独自の要綱を作成して震災対策を進めてきた。写真は、住民、事業者などで組織する「六本木ヒルズ自治会」による震災訓練の様子 (写真:森ビル)

 さらに言えば、海外からの事業誘致などの面で、国内では都市間競争が起こっているわけです。災害に対する強さ、被災後の復旧速度などが日本においては重要になるはずです。災害に強ければ、それがエリアの「売り」として機能します。