西田司氏に聞く「地域づくりの将来像」
「ホスピタリティ型」の開拓が建物でも地域でも突破口になる

西田 司氏/オンデザイン代表取締役、ISHINOMAKI 2.0理事(写真:日経アーキテクチュア)

 普段の取り組みのなかで、幾つか気を付けていることがある。その一つが「防災」という言葉の扱い方で、プレゼンテーションする場面によっては極力使わないようにする。非常に強い言葉なので、基本の計画やデザインを決定するなかで、誰も異論を唱えることができない状況を生みかねない。

 強く打ち出すことはしないが、関係するみんながメリットを享受できるテーマはやはり防災であることが多い。特に企業や行政の仕事では、それぞれが参画するモチベーションになり得る。しかし、地縁のコミュニティなどの場合、「大変な時ならば共同できるが、普段は共同できない」といった話になりがちで、より日常的なメリットのある要素から検討し、どうしたらそこに防災を持ち込めるか、といった手順で考えることになる。

 もう一つ、扱い方に注意しているのは「地域コミュニティ」という言葉だ。自分が普段属している対象を指してコミュニティと呼ぶのは差し支えない。しかし、仕事で入り込んでいる場所で下手にその言葉を使うと、かえって無用な断絶を引き起こすことがある。

 コミュニティという言葉が持つ難しさは、このエリアに住んでいる人たち、この趣味を持っている人たちだからという枠を与えた瞬間、そのなかで成長が止まる危険があることだ。そうではなく、活動が内側にこもらないように仕向ける。一定の新陳代謝が起こり、新しい人もすんなり入ってくることができるように、目線をフラットに保つ必要がある。

 住宅設計以外に、石巻市、浜松市、海士町(あまちょう)(島根県)などの地域づくりといったように手掛ける領域が広がるなかで、サービスとホスピタリティの違いを意識して取り組んでいる。

 サービスとホスピタリティの意味合いは全く違うのだが、意外に理解できていない人も多い。同じものを同じように提供し、それで利益を生み出すのがサービスの本質で、高度成長のなかでは企業も行政もそれをずっと目指してきた。しかし、元々は住宅設計が大半だったなかで僕らが学んだのは、一人ひとりが違うというベースがあり、その違うところに応答させるようなホスピタリティを重視するつくり方だ。建築家として、その人の興味や願望を言語化し、空間化することに努めてきた。

 住宅ではそれを一品生産と効率的な大量生産との対比で分かりやすく説明できると思うが、ほかに目を向けるとホスピタリティを重視してつくるという領域は意外に開拓が進んでいない。今後、建物のあり方も地域のあり方もホスピタリティ型になっていく。そういう目線で切り込むと、建築家にも意外にできることが多いと最近は実感している。

 ホスピタリティ型の可能性が開けてきたのには、やはりITの恩恵が大きい。かつては会社や学校などの内輪で主流とされる人たちの考え方に自分が合うか合わないか、それだけだった。しかし、今は広く情報を入手できるおかげで、もっと圧倒的に多様な価値観があると分かり、一人ひとりが、そのなかに自分をマッピングできる。

 それは結局、ビルディングタイプに関係する。ビルはこうあるべき、商店街はこうあるべきという計画学によるつくり方とは異なるものになる。一品生産というほどではないにしても、個人としてクオリティ・オブ・ライフを求めている人、その実現にメリットやモチベーションを感じて集まる人たちとのマッチングを図るスキルを、僕ら建築の側は養ったほうがいい。そこに突破口があるんじゃないか。

 石巻で試みている市民・住民の声を聴き取るところから始める取り組みも、そうしたクオリティ・オブ・ライフにつながる「タネ」を探るものになっている。地域のなかにある色んなシビックプライドを集めていき、その人たちの思いに僕らが乗っかる。そうやって新しいコミュニケーションや場所の自発的な発生をサポートするのが健全だ。最終的に、共助を可能にするような一体感が育っていくのではないか。

 石巻で実証実験を続ければ、やがて防災という切り口を含め、東京のなかのエリアなどにも応用できる。そんな意識で取り組んでいる。(談)

左/まちなかの市民工房として始まったDIYを軸とするものづくり拠点「石巻工房」。2014年2月に株式会社化し、場所も近郊に移転している 右/まちなかの社会福祉協議会ビルにおける市民参加イベントの様子(写真:ISHINOMAKI 2.0)

出典:2014 Summer 特別編集版 20~22 Vol.027 「防災」再考 安全・安心な家、ビル、まちづくりに向けて
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。