まちの生活を「楽しむ」ことから

 小泉氏は、建築設計事務所のオンデザイン(横浜市)から出向し、常駐スタッフとして石巻の復興まちづくりに携わってきた。山下地区でまず着手したのは、中心市街地でもそうしたように地元関係者に対するヒアリングを丁寧に重ねるところからだった。

 そのまちづくりの進め方には、一つひとつ個別の事情に合わせて住宅をつくる建築家の仕事と共通する面がある(「地域づくりの将来像」の談話を参照)。建て主のライフスタイルや将来に対する思い、意識できている願望、できていない願望を読み取る作業に近いことをまちでも行う。それを市街地では「石巻VOICE」、今回は「山下VOICE」というフリーペーパー形態に編集して発行し、アイデアのリソースなどとして共有する。

■ 地域自治システム構築などに広がる活動
山下地区の住民にヒアリングした内容をフリーペーパー形態にした「山下 VOICE」。“未来の言葉”を拾うという趣旨で、最初の中心市街地側の取り組みでは、これを4冊発行した(資料:ISHINOMAKI 2.0)
右がISHINOMAKI 2.0理事の小泉瑛一氏。左は震災後に東京から故郷の石巻に戻り、「地域産業×IT」という観点で地元雇用を促進するためのソフトウエア開発拠点「イトナブ石巻」を立ち上げたWebディレクターの古山隆幸氏(同理事)(写真:日経アーキテクチュア)
石巻市は2014年2月、世界銀行東京防災ハブの開設を記念して世界各地で同時開催されたイベント「世界防災・減災ハッカソン Race for Resilience」の会場の一つになった。指定会場に集まった参加者が、その場でソフトウエアなどの開発を競うイベントで、洪水からの避難を題材にイトナブがエントリーしたスマートフォン用アプリケーション「FloodAR」は上位に残った。右はその画面 (資料:Race for Resilience、イトナブ)

 16の町内会がある山下地区のヒアリングでは第一に、「住民による地域活動の現状に対し、こちらが先入観を持ち過ぎていると分かった」と小泉氏は振り返る。一方、「市街地と同様に、地域にいる人たちの技能や知恵を生かせば、まちの生活を楽しみ、活躍のステージを持つようなあり方が可能になるという手応えもつかんだ」(同氏)。

 山下は津波そのものではなく、時間がたってからの浸水による建物被害が大きかった地区で、現在も大雨で冠水が問題になる個所が多い。課題を抽出する住民ワークショップでは、危険区域マップなども欲しいという声が上がった。そこでまち歩きイベントなどを行い、地区の様子を把握し、情報として共有する試みなども進めている。

 地域防災の面では、安否確認のネットワークづくりなどが必要になる。まずは住民の主体性が自律的に生まれるように支援するプロセスで、共助の意識なども醸成する。もう1つは、向こう三軒両隣くらいに単位を細かく分割し、「住民自身でハンドリングしやすい環境にしていくのが現実的ではないか」と小泉氏は語る。そうした小さな単位を、中間的な組織であるISHINOMAKI 2.0などの活動で鎖のようにつないでいき、地域自治や地域防災も機能するようなまちのあり方をデザインする、というイメージだ。

 ISHINOMAKI 2.0の理事で、建築家として関わる一人、オンデザイン代表取締役の西田司氏はこう語る。「地域共同体の価値を高めるなかで、自然と高齢者の見守りや、お互いの助け合いの意識が生まれることが望ましい。商店街における先駆的な場所づくりやコミュニケーションづくりの成果と、そうした住宅地の自治システムをうまく連携させる方法を模索したい」。

 衰退の著しい商店街、共助を期待しづらい住宅地は、ともに日本のどの場所にもある問題だ。復興というキーワードをバネに歩みを早める石巻は課題解決の先進地のような位置付けとなる。今後、石巻市内の他地区でも、高台移転や仮設住宅から本設住宅への住み替えが始まり、元とは違う関係、以前よりも薄まった関係のなかで住民が一緒にまちを育てていく。そうした場所に持ち込むことのできるノウハウの蓄積も目的の一つだという。