東日本大震災はマグニチュード(M)9.0の巨大地震に加え、想定外の巨大津波、広範囲に及ぶ液状化現象、いまだ予断を許さない原子力発電所の事故など、まさに未曾有の大災害となった。

 震災は日本の住宅産業に危機をもたらした。合板や設備機器が市場から消え、各地で仕掛かり中の現場が止まった。エネルギー不足が深刻化し、企業活動は停滞している。自粛ムードがはびこる中、消費マインドも急激に冷え込んでいる。日本中が先の見えない不安におびえている。

 ただ自粛は萎縮につながり、日本経済を縮こまらせてしまう。地震の直接の被害を受けなかった人たちが経済を立て直し、盛り返さなくては復旧・復興もままならない。なにより被災者が喜ばないと思う。

 私も阪神大震災で被災した。震災後1週間ほどたってようやく芦屋から大阪にたどり着くと、いつもと変わらない日常生活が送られているのを見てがくぜんとしたことを覚えている。妬ましい、羨ましいと思う一方で、「これなら何とかなる」とも感じた。普通の生活を送っている人たちが自分たち被災者を必ず助けてくれるはずだと。

 震災を受けて、家づくりに携わるプロは何をすべきか。義援金を送ったりボランティアに参加したりする方法もあるが、自らの職責を全うすることが切実に求められていると考える。設計者は法制度や耐震性の相談に乗り、施工者は復旧や改修の方法を提案し、建材・設備メーカーは災害に備えた製品の使い方を説明する。そして私たち専門メディアはプロに役立つ情報を早く、深く、わかりやすく、絶え間なく発信していく――。

 住まいは安全・安心な生活の基盤だ。大震災はその基盤を根底から揺るがした。日本中が不安に陥っている今こそ、これまで培った家づくりの知識と経験を生かすべきではないだろうか。顧客が萎縮しているからといって、職責を放棄してまでプロも自粛する必要はない。不安が払拭できれば顧客は普通の生活を送れるようになり、ひいては被災地を救うことにつながる。

 日本中で被災地を支援する輪が広まっている。いろいろなところから「がんばろう」という声が聞こえてくる。でも多くを失った被災者にとって、「がんばろう」はつらく重荷になるかもしれない。復興への道筋が見えてくるまでのしばらくの間は、危機に直面し乗り越えようと懸命にもがいている家づくりのプロたちに、「がんばろう」とエールを送りたい。

宮城県女川町で津波に襲われ、被災した工務店が残したメッセージ(写真:阿部養建設)