こんなの見たことない――。10月16日の内覧会に参加した誰もが、こう思ったのではないだろうか。その「作品」は、西沢立衛建築設計事務所が設計し、内藤礼氏がアートを担当した豊島美術館だ。瀬戸内国際芸術祭が開催されている香川県豊島にある。

 水滴を模した建物の白い外観にまず目を見張った。木立に囲まれ、瀬戸内海を見下ろす緩やかな斜面にあって鮮やかだ。長いアプローチを抜け、小さな入り口をくぐると、1958m2の空間が広がる。柱や間仕切り壁がない、広大なワンルームだ。2カ所に設けられた円形の開口部からは青空が見え、風が流れてくる。床に目を落とすと、水滴が動いている。流れてはいない。小刻みに形を変え、軽やかに移動する。

内藤 礼 「母型」2010年(写真:森川 昇)

 その行く先を目で追うと水たまりがある。幾つもの小さな水滴が、何かを追いかける生き物のように水たまりに集まっていく。

 コンクリートの床に設けられた発水口は186個。直径2mmと微小なので、ややもすると見落としてしまう。水滴は、この小さな穴から床に発水されたものだ。定期的に一定の量を発水するようにプログラムが組まれ、制御されている。床には撥水剤が塗布されており、水を弾く。そして水たまりの部分に向かって微かに傾斜している。水滴が生きているかのように動いていくのは、このためだ。

内藤 礼 「母型」2010年(写真:森川 昇)