「五七五七七」の句を詠(よ)み継ぐ連歌のように建築をつくり、街並みをつくる──といった提案を、過去に何度か聞いたことがある。このうち、生々流転する「都市」を対象とし、建築家とアーティストによる連歌形式のプランニングのシミュレートを試みたのが、建築家の磯崎新氏による1997年の展覧会『「海市」-もう一つのユートピア』だった。東京・西新宿にあるNTTインターコミュニケーション・センターのオープニング記念展として開催されたものだ。

 この「海市」の“再演”が現在、東京・表参道のギャラリー「EYE OF GYRE」で展開されている。

 マカオの沖合に計画中の人工島を仮想の敷地とし、「複数の主体の参加により、ダイナミックに都市形態を生成させる」──といった状況を模擬的に生み出すことが、このプロジェクトの目的だった。97年の展覧会では、12週間の会期中、12組の建築家とアーティストが入れ替わりで会場に入って作業し、模型の上に「連歌」風に都市を構想していった。来場者の意見も聴き、前任の作家のコンセプトに新たに自分のコンセプトを重ね合わせ、都市を更新する──。

 このつくり方であれば、一つの主体のみがコントロールすることによる単調さを免れることができ、複数の知見が積み重なることによる理想的な都市(形態)が生まれるのではないか。と、期待したいところだが、よく知られるように、97年の試みでは模型は破壊されていき、やがて実体としては消失してしまう(放棄されてしまう)という結末に至った。このときの状況を振り返り、インターネットでおなじみの「炎上が起こった」などと表現されるようにもなっている。

 2010年版の再演では、同じ条件の人工島を用意し、5週間の会期中に、15組の若手建築家が連歌形式の協働作業を行うことになる。模型制作とBIM(3次元CAD)によるモデリングを並行させ、各段階の履歴を残すといった点が、1997年版とは異なる。参加するのは主に、1970年代生まれの建築家たちだ(*1)。97年の展覧会に参加した面々以上に、おそらくは、「都市」と向き合う機会を奪われた世代だろう。会期終了の10月24日までの間に、どのような発展を見せるかが興味深い。

「海市 2.0」の当初の様子。初期状態の手前の模型以外は更地で展示し、ワークショップによってバージョンアップを図る趣向。「インターネットやBIMなどの情報技術を味方につけ、ラディカリズムに陥らずに、他者を迎え入れ、いきいきとした場を創造するような社会を設計する方法論を示すことができるのか」といった問題設定で進んでいる(写真:日経アーキテクチュア)

「海市」の展示の傍らでは、建築家からの提案を模型とBIMで形にする作業が進む。「共同作業の履歴を模型とBIMデータで残し、可視化させることで、オリジナル版で導入された『連歌』という形式の特性をさらに強化させる」という(写真:日経アーキテクチュア)


 この海市の再演を含む展覧会『CITY2.0──WEB世代の都市進化論』は、1976年生まれの藤村龍至氏をはじめとする建築家、編集者、グラフィックデザイナーからなる「TEAM ROUNDABOUT」のキュレーションによって実現した。昨年の展覧会『ARCHITECT2.0 WEB世代の建築進化論』、今年のトークセッション『メタボリズム2.0―都市へ回帰せよ』 といったように、建築と都市、そして情報環境の現在を直視し、関連分野の識者なども巻き込みながら目覚ましい活動を続けている。

 「海市 2.0」を含め、Web 2.0を意識した「2.0」という表記をあえて一連の活動の中で繰り返している点が、現代的な意思表明と言ってよい。ウェブ上における双方向かつ流動的なコミュニケーションのあり方は、様々な創作活動はもちろん、日常の生活自体にも大きな影響を及ぼしている。磯崎氏をはじめとする先行世代の提案のなかにも、こうした現在のウェブの概念、情報通信技術を取り入れれば、より展望の開けてくるものがあるのではないか。といった問い掛けだ。

 1931年生まれの磯崎氏は、情報通信技術と都市・建築の関係を読み解くことも、早くから進めてきた。Windows 95が登場し、インターネットの普及に弾みが付いた1990年代の後半にいち早く提示したのが「海市」だった。もちろん当時は今から見れば「1.0」の時期であり、mixi、Facebook、pixivなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、果てはTwitterのようなリアルタイム指向のサービス(広義のSNS)の登場は予測はできても実感できていなかった。

 こうしたツールが発展してきたポイントは「コミュニケーション」であり、これは建築や都市のあり方に本来、大きく作用するものだ。そうした認識に立てば、情報環境と現実環境を行き来しながらの「連歌」的な行為=バトンタッチ型の創作活動の可能性などには、改めて目を向けてよいはずだと分かってくる。情報環境と聞き、物理的な建築からは遠い「バーチャル」なものと連想する人もいるかもしれないが、それはまだ「1.0」的な思考にとどまっている、ということかもしれない。

 シミュレーションゲームのようでもある「海市 2.0」を、若手の余興として傍観することは簡単だが、建築にかかわる者の少なからずは、既に同じフィールドにいるプレイヤーであるはずだ。個々の敷地の中の仕事で自足する傾向を強めてきた(そうせざるを得ないとあきらめていた)建築家(設計者)に対し、改めて「都市に目を向けよ」と“ウェブ世代”からの呼び掛けが発せられている。どの世代であっても、こうした動きに正面から応じ、都市づくりに向けて様々な立場と視点から発信しなければいけない時期が来ているのではないか。


*1 会期中、乾久美子、松岡聡田村裕希、森田一弥による「2.1」(9/13~18)、中山英之、長谷川豪、SPACESPACEによる「2.2」(9/25~30)、 藤本壮介、垣内光司、徳山知永による「2.3」(10/2~7)、五十嵐淳、木村松本、吉村靖孝による「2.4」(10/9~13)、中村竜治、dot architects、満田衛資による「2.5」(10/16~20)と15組のヴィジターズ(敬称略)のワークショップを重ね、バージョンアップが行われる。展覧会の案内は「こちら」

磯崎新氏は「海市 2.0」に協力するとともに、「孵化過程」を出品した。オリジナルは1962年にさかのぼるもので.磯崎氏の提案する都市モデル「ジョイント・コア・システム」を、釘と針金によって模したインスタレーション作品。観客参加型でできた模型に最後に石こうを流し込み、生成過程を「切断」する。今回は、このインスタレーションが1997年に水戸芸術館で再現された際の予備の模型を持ち込み、2度目の再演を行った。磯崎氏の直前の提案により、出展者などがバトンタッチし、順番に石こうを流し込んでいくパフォーマンスとなった(写真:日経アーキテクチュア)

奥にある一室で展開する「カオス*ハウス プロジェクト」。「海市」だけではなく、こちらも会期中に進行する。ネットカルチャーをベースに活動する画家やエンジニアからなる集団「カオス*ラウンジ」と藤村龍至氏らが協働し、彼らオタクやギーク(特に技術系のオタク)のための“理想の家”を設計する。ミーティング時の資料なども展示している(写真:日経アーキテクチュア)

現在開催中の展覧会『CITY2.0』には「海市」以外にも、建築/アートと都市、情報環境の関係を示唆する過去から現在までの複数の作品、重要な提案が集められている。写真は、建築家の渡辺誠氏による1990年代の提案「誘導都市」。ある特定の課題の解決をコンピュータープログラムにゆだね、その誘導に従って都市を設計する。今回は、「太陽神の都市/反太陽神の都市」の生成過程をマウス操作で体験できる。右は、本展のキュレーターを担当した藤村龍至氏(写真:日経アーキテクチュア)