意匠、構造、設備を五洋建設が統合

 施工の元請け会社である五洋建設のシンガポール事務所は、この工事を2009年12月に受注した。その条件には「3次元で意匠、構造、設備の総合図を作成する」という一項が入っていた。

 構造はアラップからTeklaStructuresのBIMモデルデータとして受け取ったものの、意匠と設備については別の設計事務所から2次元図面で支給された。そこで意匠と設備をRevit ArchitectureなどでBIMモデル化した。

 そして問題になったのは、TeklaStructuresとRevitのBIMモデルをどのように統合するかだった。

 当時、この工事の現場所長を務めた五洋建設シンガポール事務所長の伊原成章氏は「両方のデータを読み込めるソフトを探した結果、クルマなどの設計に使われる3次元CADソフト『HICAD』に行き着いた」と苦労を振り返る。

左から五洋建設シンガポール事務所の伊原成章所長、中川裕一郎氏(写真:家入龍太)

 しかし、HICADを使えるオペレーターは周囲には見つからない。そこでインドの会社と契約してHICADのほか、TeklaStructuresとRevitのオペレーターを派遣してもらうとともに、HICADのソフトもレンタルで利用した。そして自社のスタッフもCADのトレーニングを受講して、意匠、構造、設備のすべてのBIMモデルデータをHICADに取り込んで施工図の作成を行った。

 複雑な曲面で構成された屋根や外壁は、表面形状と鉄骨部分のデータはあるものの、その間は五洋建設が決めていかなければならない。

 「鉄骨の上にロックウール、セメントボード、防水シート、そして外壁となる幅600mmのグラスファイバー板が順番に重なる構造になっている。鉄骨に部材を取り付けていくと自重が増え、鉄骨が変形するので最終形状を設計通りに仕上げるため苦労した」(伊原所長)。

施工中の現場(写真:五洋建設)

 複雑な曲面を施工する苦労は足場が掛けられないこともあった。そうした場所ではロッククライミングのようにロープにぶら下がって窓の清掃を行う作業員が活躍した。「窓の清掃を行う作業員に屋根を張るための教育を行った。そして花びらの頂点から下ろしたロープにつかまりながら屋根を施工した」(伊原所長)。

 鉄骨の製作を担当したヨンナム社では、TeklaStructuresのBIMモデルデータから「単品図」と呼ばれる鋼材加工用の図面を自動的に作成するとともに、BIMモデルデータを工場内のCNC(コンピューター数値制御)切断機に読み込ませて、鋼管の自動切断なども行った。同社がアートサイエンス・ミュージアムの工事のために製作した部材は約5000トンにも及んだ。

ヨンナム社での部材製作作業(左)。TeklaStructuresのデータ通りに鋼管を切断するCNC切断機(右)(写真左:五洋建設、写真右:家入龍太)