建設業界でBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や3次元CADが普及しつつある一方、大学教育ではいまだに手描き図面だけでCADを教えていない学校がある。その結果、大学でフリーの2次元CADを使いこなして鼻高々だった学生が、就職後にBIMソフトを前に立ち往生し、自信を失う例もある。一部の大学ではBIMをカリキュラムに取り入れているものの、まだ少数派だ。

 先週の当コーナーで掲載した「就職率100%の講習会も!BIM人材は希少価値」という記事では、BIMが雇用促進に一定の効果を果たしていることをお伝えした。

 就職難の沖縄で開催したBIMの講習会で受講者全員の就職が決まった話や、自社のBIMソフトを使える人材の就職や求職をサポートするソフトベンダーの動きもあった。

 裏返せば、2次元の図面やCADの範囲にとどまっている従来の教育カリキュラムで学んだ学生が現在の建築業界に就職し、3次元のモデルで建物を設計する3次元CADや、それに加えて部材の属性情報も同時に扱うBIMソフトなどの洗礼を受けると大変な目に遭うこともあるということだ。今回は、その悲喜劇を紹介しよう。

ケース1:独学で2次元CADをマスターして就職したが…

 Aさんが卒業したある建築専門学校では、卒業設計の図面を手描きで作成するのが普通だったが、Aさんは独学でフリーソフトの2次元CADをマスターした。卒業設計もCADで行い、同級生の間では鼻高々だった。

 そして、北陸地方のある建設会社に就職し、設計部門に配属された。得意のCADで仕事しようと自信満々だったが、その自信はもろくも崩れ去った。

 その建設会社は、ある住宅用の3次元CADソフトのヘビーユーザーだったからだ。そのソフトは「BIM」という言葉が登場する前からあり、3次元モデルで住宅を設計し、様々なシミュレーションを行える機能を備えたソフトだ。実質的に住宅専用のBIMソフトと言ってもよいものだ。あるユーザーが「シェア上位の建築用BIMソフトに比べて10年は進んでいる」とまで豪語するほどの機能を持っている。

 当然、2次元CADのように2本線で壁を描いたりするのではなく、まずは住宅の3次元モデルをパソコンの中に構築してから、いろいろな図面を「モデルから切り出す」ようにして作るのだ。

 その設計プロセスはAさんが想像していたものとは全く違った。意気揚々と支給されたパソコンの3次元CADソフトを立ち上げたものの、文字通り手も足も出なかったのだ。

 Aさんの上司であるSさんは「蒸気機関車の運転の訓練をしてきた人が、いきなり新幹線のぞみのコックピットに座らされたようなものだ」と表現する。もちろん、蒸気機関車とは2次元CADのこと、そしてのぞみとは3次元CADソフトのことである。

(資料作成:家入 龍太)

 「CADは線を引くという作業をデジタル化するだけだが、BIMや住宅専用3次元CADは、線を引くという概念ではなく、柱を置く、壁を立てる、窓を取り付ける、屋根の形状を決める、外装の仕様を決める、といった通常、建築設計における作業を逐次デジタル化して入力していくという作業だ。Aさんの前に最初に立ちはだかった壁はこの部分だった」とSさんは言う。

 「住宅専用3次元CADへの入力作業には、建築一般構造として規定される知識が必要となる。例えば、外装サイジングは縦張りと横張りでは下地の流し方が違い、木造と鉄骨でもやり方が違う。これを従来の図面では二重線として表現していただけだ。Aさんが持っていたCADトレーサー的なノウハウは全く否定されてしまった」と、Sさんは振り返る。