構造的な職人不足に伴う労務費高騰が、日本の建築生産を根底から揺さぶっている。被災地や首都圏の公共建築では、入札不調や設計案の白紙撤回が続出。民間建築でも工事の遅延や凍結が相次ぐ。日経アーキテクチュア4月25日号の特集「どうする職人危機」では、こうした職人不足の現状や対策を描いた。ただし、現場を揺るがしているのは職人不足だけではない。資材費の高騰や、施工管理を担う技術者の不足を指摘する声もある。

郊外のマンション計画が白紙に

 労務費高騰によって、事業そのものがストップする事態が生じている。小田急電鉄は4月10日、川崎市の向ケ丘遊園跡地で進めていた住宅開発計画を白紙に戻すと発表。東日本大震災の復興需要と東京五輪の決定で労務費が高騰し、事業として成立しないと判断した。

向ケ丘遊園跡地利用の配置図(基本計画時)。建設コストの上昇で白紙に戻った(資料:小田急電鉄)

 向ケ丘遊園は2002年3月に閉園。04年に川崎市と小田急電鉄が跡地利用について基本合意した。10年には、戸建て住宅60戸と低層集合住宅160戸などを整備する基本計画をまとめた。緑に囲まれた高額物件を中心とする計画だった。

 計画では最短で14年下期に着工し、20年春に完成予定だった。しかし、計画をまとめた10年3月と現在とを比較すると、労務費が3割上昇し、その影響で全体工事費が当初の見込みより1割高くなった。小田急電鉄CSR・広報部は、「資材費の上昇分を加えるとさらに工事費は高くなるだろう」としている。

 また、富裕層を狙った高額物件の都心回帰が進んでいることも、計画を白紙に戻した理由の1つだ。「緑を保全するなどの制約があり、もともと通常の住宅開発より利幅が薄い事業だった。販売面でのリスクも高まったために見直すことにした」(同社CSR・広報部)。

 今後は、04年に結んだ基本合意書をもとに、再び川崎市と協議しながら計画を練り直す。住宅開発を前提とせず、用途も含めて検討する方針だ。