欧州との結びつきを阻む脆弱なインフラ

 これらのバルト3国の都市を訪ねてみると、大きな共通点があるように思える。それは、しゃれたレストランやカフェが至る所に見られることや、商店やホテルの従業員のサービスがとても洗練されていることなど、「便利で快適な生活」への志向が極めて強いという点である。また、フランスやイタリア、スペインなどの西欧諸国と比べて、英語がとても通じやすいということもある。

 このような特徴は、ロシア帝国・ソ連に支配された長い歴史を持ち、抑圧された時代に自由な生活への強い渇望を抱いてきたことと無縁ではないであろう。そして、ロシアの脅威は、現在でも続いているのである。エストニアとラトビアは東部でロシアと国境を接しているが、これに加え、リトアニア南部とポーランドとの間のバルト海沿いには、ロシアの飛び地であるカリーニングラード州が置かれている。つまり、バルト3国は、ロシアとその衛星国・ベラルーシに包囲されているとも言える。

 バルト3国の人々は、このような状況を踏まえ、20世紀末の再独立後からロシアに対抗するための努力を続けてきた。EU加盟後には、国家財政の改善という厳しい条件をクリアし、エストニアは2011年、ラトビアは今年(2014年)1月にユーロを導入したことも、ヨーロッパ諸国との経済一体化への強い意志を示していると言える(リトアニアは2015年のユーロ導入を検討中)。

バルト海沿岸部を走るラトビア国鉄(写真:菅昌 徹治)

 しかし、バルト3国の社会インフラは、強固な国となるためには未だ脆弱な部分が残っている。例えば、ラトビアの国営鉄道は、車両は古く、車掌が各客車の後方の席に座り、乗客が乗ってくるたびにチケットをチェックするという非効率な運営を行っている。また、リトアニア内の幹線道路は、主要都市間を結ぶものでも片側1車線の区間が多く、物資を積んだトラックが1台いるだけで、すぐに渋滞が生じてしまう。

 さらに、生活面でも、水洗トイレのない住宅に居住する者の割合がエストニア9.6%、ラトビア16.1%、リトアニア16.8%、風呂またはシャワーのない住宅に居住する者の割合がエストニア10.5%、ラトビア18.2%、リトアニア16.1%となっているなど、居住環境の改善が望まれる(2011年時点)。加えて、リトアニアには、原油や天然ガスなどエネルギー供給の約8割をロシアに依存しているという課題もある。

 現在、今年2月に親ロシア政権が崩壊したウクライナの情勢をめぐり、欧米諸国とロシアとの対立が深まっている。4月には、NATOがロシアに近接するバルト3国上空の戦闘機によるパトロール強化や、バルト海への戦艦増派を決定したほか、総勢600名規模のアメリカ空挺部隊もバルト3国およびポーランドに派遣された。一方で、東欧諸国からウクライナへの天然ガス供給などによるエネルギー支援の計画も進んでいる。こうした状況下では、ヨーロッパとロシアの接点に当たるバルト3国の政治・経済面での戦略的な重要性は、ますます高まっていくと言えるだろう。

 日本からバルト3国を訪れる観光客はまだ少なく、これらの国の歴史や社会状況への関心もあまり高くないのが現状である。刻々と変化する世界情勢に対応するためにも、交通・エネルギーインフラや観光などの分野において、バルト3国との関係を強化する必要があるのではないだろうか。


菅昌 徹治(すがよし・てつじ)
国土交通省大臣官房秘書室。1976年横浜生まれ。99年国土交通省(旧建設省)入省。2009年4月から12年8月まで外務省EU日本政府代表部(在ブリュッセル)に一等書記官として勤務。