「避難用エレベーター」を実現

 計画が始まったのは12年以上前で、アラップは、火災安全設計と建築設備設計をサポートしてきた。

 火災安全に関して、イギリスでは建物の用途ごとに2方向避難が要求されるため、通常、オフィス、ホテル、住宅、ギャラリーがあれば、最低でも8カ所の避難階段が要求されるという。しかし、このシャードでは、避難階段を3カ所にまで減らしている。それは、イギリスでも複合高層ビルで初の試みとなる“エレベーターを避難に使用する”ことを実現できたからである。

 アラップが世界中で行った超高層ビル設計での経験を生かし、エレベーターの速度、避難場所の広さなどを分析し、消防との協議を数年にわたり行ってきた。階段で避難した場合にかかる避難時間、同時に建物のどのような状況が避難においてハザードになるかなどをシミュレーションし、効率的な火災安全計画を立てたのだ。

 エレベーターの詳細設計にも介入し、通常モードと非常時モードでのオペレーションの違いやそれをどのように管理していくかについても実現可能であることを実証していった。火災時に、避難階段とエレベーターシャフトに煙が進入しないよう、常に正圧になるよう設計されている。

ファサードは1万枚以上のガラス

 ファサードは、トリプル・グレイジング(3層ガラス)の1万枚以上のモジュールから構成されている。熱貫流率は1.4W/m2K と、高性能Low-E複層ガラス程度の性能を持っている。これによって、室内の空調負荷がかなり削減されている。

ファサードの断面イメージ。この3層のガラスのファサードの表面積は5万6000m2にも及ぶ(資料:Arup)

 設備に関しては、同じ平面形状が2つと無いこの建物において、設備スペースをどのように確保するかは大問題であった。先細りする平面形状において、下階から上階まで同じ設備シャフトスペースを設けると、上部では極端にレンタブル比が下がってしまう。高性能のファサードによって、環境負荷はかなり低く抑えられ設備スペースの削減に寄与したが、さらに、建物の用途ごとに個別の設備システムと機器スペースをそれぞれ設けた。また3Dモデルを使って検討することによって、小さな空間を有効活用し機器配置を行った。

 結果的に、用途ごとのコミッショニング(性能検証)が可能となり、竣工前の擾乱(じょうらん)を軽減することができたという。工期を短縮し、施工精度を上げるため、竪シャフト類は3層モジュールで工場製作して、現場ではボルトで締めるという施工方式を取っている。

地上で組み立てられた、モジュール化された設備配管。ザ・シャードの大部分の建材はリサイクルされた材料を含むものだという(写真:Arup)