書籍「近隣交渉に困らないための建築トラブル対処術」では、建築実務者が直面したトラブルの実体験や、解決に至る交渉のプロセスなどを詳述し、近隣交渉のために知っておくべき法的知識について解説している。目玉の1つが、近隣トラブルをめぐる判例解説だ。収録した14判例から、特にお役立ち度の高い判例を3回に分けて紹介する。第2回は他人の所有する隣地を介し、接道条件を満たして取得した建築確認が取り消された判例を解説する。(高市 清治=日経アーキテクチュア)


 設計図書の内容と、現地の状況が食い違っている――。建築の世界ではよくあることだが、このケースほど、あからさまに違っているのは珍しい。

 現場は、東京・世田谷区の住宅街。A氏の敷地は、道路に接していない、いわゆる不接道敷地だった。A氏は自宅の建て替えを計画したが、建築基準法43条には「敷地は幅員4m以上の道路に2m以上接していなくてはならない」との定めがあるため、現状のままでは確認は下りない。

 そこで、A氏は隣に住むB氏の土地の一部を勝手に自分の敷地として設計図書を設計者に作成させ、建築確認申請を提出。自分の敷地が、前面道路に2m接するように取り繕った。

 これを受け取った特定行政庁の世田谷区は、設計図書の内容に問題がないと判断して確認を下ろした。つまり、他人の土地を自分の敷地と偽った設計図書に、確認が下りてしまったのだ。

A氏は、本来B氏の土地を自らの敷地として接道要件を満たして、建築確認を申請。世田谷区は建築確認を下ろした。(資料:世田谷区の資料をもとに日経アーキテクチュアが作成)

 これに対して、隣地所有者のB氏が区建築審査会に確認取り消しを求める審査請求を提起。それを受けた審査会は、B氏の訴えを認めて確認を取り消した。

 今度は、A氏が「一度下りた確認が取り消されるのは、納得できない」として、国や区を相手取り、審査会の裁決の取り消しを求めて東京地裁に提訴した。東京地裁はA氏の訴えを退け、建築審査会の裁決を認める判決を下した。