書籍「近隣交渉に困らないための建築トラブル対処術」では、建築実務者が直面したトラブルの実体験や、解決に至る交渉のプロセスなどを詳述し、近隣交渉のために知っておくべき法的知識について弁護士が解説している。目玉の1つが、近隣トラブルをめぐる判例解説だ。収録した14判例から、特にお役立ち度の高い判例を3回に分けて紹介する。第1回は弁護士の福田晴政氏が、隣地利用の画期的な判決を解説する。(日経アーキテクチュア)


 建設工事を進めるときに隣地の使用が必要になることがある。それにもかかわらず、隣地の所有者から使用の承諾を得られなかった場合、どうすればよいのか。その参考となる判決を詳述する。

 ビルや住宅の建設工事では、一時的に隣地を使用しなければならないケースが非常に多い。特に都心部の住宅密集地などでは、敷地に余裕がなく、仮設の足場を組むために隣地を使用している例をしばしば見かける。

 しかし、隣地所有者に隣地の使用を拒否されることは珍しくない。そんなときは諦めるしかないのか。

 民法209条は、隣地使用の請求権を認めている。そのうえで、隣地所有者の承諾がなければ「住家」には立ち入ることができないと規定している。ただし、承諾がなくても隣地所有者に特別な損害を与えない範囲であれば、裁判所は建設工事のための隣地使用を認めることがある。

 実は筆者自身、隣地使用を請求する裁判に代理人弁護士として関わったことがある。原告は「建物の建設工事のために、隣地全体の使用について、裁判を通して隣地所有者の承諾を得たい」と依頼してきた。

原告は、軟弱地盤の敷地で現場打ち杭のアースドリル工法を採用するため、隣地全体の使用を請求した(資料:判決文などの資料をもとに日経アーキテクチュアが作成)

 このとき、筆者は提訴に踏み切ってもよいものか迷った。というのも民法209条1項の条文を素直に読むと、隣地の部分使用は認めても、隣地全体の使用を認めているようには読めなかったからだ。提訴しても、勝訴できるか確信が持てなかった。

 最終的には、原告の強い意向もあって提訴に踏み切った。その結果、裁判所は原告側の主張を全面的に認め、隣地全体の使用を認めた(東京地裁2011年9月26日判決)。