同世代、同時期独立のインテリアデザイナーと刺激を与え合う

「軍鶏匠」 1996/港区西麻布/業態:焼き鳥・鍋/発注・運営者:遠山商事(開業当時)/内装設計者:橋本夕紀夫デザインスタジオ(写真:ナカサ アンド パートナーズ) ※2014年現在は「一歩」として営業中

馬場 軍鶏匠は、今でもありますよね。

橋本 オーナーも店名も変わりましたけれどね。

 この店も色々と変遷がありました。オーナーが変わって内装にも手が加わって、ついに閉店かというときに、もともと軍鶏匠で店長をやっていた方が手を挙げて引き受けたんです。それで僕に電話がかかってきて、「橋本さん、元に戻してください」と頼まれてね。それはつい最近、2年前くらいのことです。でも、こういう形で店は生き残っていくのだなと、感慨深い経験でした。

馬場 「戻してください」ですか。それは、ある意味デザイナーみょうりに尽きる言葉ですよね。

橋本 そうですね。その方も最初の店が本当に好きだったんだなと思うと、うれしい依頼でした。

「橙家 新宿」 1998/新宿区新宿3丁目/業態:創作和食/発注・運営者:ちゃんと(開業当時)/内装設計者:橋本夕紀夫デザインスタジオ(写真:ナカサ アンド パートナーズ) ※「橙家」および「美食酒屋 ちゃんと。」のブランドは現在、豊田産業が展開している

馬場 90年代後半というのは創作料理ブームもありましたね。

橋本 “大阪の風雲児”といわれた「ちゃんと」の岡田賢一郎さんが東京に進出してきたのが、その頃です。たまたま軍鶏匠を訪れて気に入ってくださって、いきなり新宿で150坪の店を任されたんです。それが「橙家 新宿」(1998)です。僕はそれまで、そんなに大きなレストランをデザインしたことがなかったので、とてもいい経験になりました。

馬場 ちゃんとが運営する店って森田(恭通)さんもよく手掛けていましたよね。

橋本 はい。森田さんはもともと大阪出身なので。大阪の「ちゃんと。」は結構手掛けています。東京初出店の「Ken's Dining 西麻布」(1999)も森田さんが担当していました。僕は「スーパーポテト」以外の世界を知らなかったので、ある意味“真逆”だった森田さんの手法は新鮮で、刺激になりました。片や超装飾の世界、当時の僕は装飾を全否定したデザインでしたから。

取材の様子。橋本氏(左)と聞き手の馬場氏(写真:鈴木愛子)

 森田さんは器用な方だから、装飾の世界をとても面白くまとめるんですよね。それを見て、「今までは装飾を否定してきたけれど、必要なものじゃないか」と意識し始めて、以後の自分のテイストがそういう方向にも広がっていった。当時は、デザインにとっても激動の時代でしたから、色々なアプローチをするデザイナーがいて面白かったですね。

馬場 ちょうどその頃「東京デザイナーズレストラン」(日経BP社刊、註5)が出版されて、僕はそれを読んで橋本さんや森田さんのお名前を知りました。あのなかに紹介されている店には、橋本さんの作品って多いじゃないですか。「ああ、あの店もそうだったんだな」って改めて気付き、様々なつながりが見えてくるきっかけになったわけです。

<後編に続く>

※都内の店舗については、所在地の表記から「東京都」を省略しています。また、既に閉店している場合でも、開業年のみを記載しています。

註釈解説

註1 形見一郎、森田恭通、吉岡徳仁
形見一郎氏(カタ代表)は1966年生まれ、森田恭通氏(グラマラス代表)は67年生まれ、吉岡徳仁氏(吉岡徳仁デザイン事務所代表)は67年生まれのデザイナー。森田氏は96年(グラマラスとしては2000年)、形見氏と吉岡氏は2000年に自身の事務所を設立。それぞれインテリアを中心に、プロダクト、建築・住宅などの幅広い分野で活躍している。

註2 杉本貴志
1945年生まれのデザイナー。73年にスーパーポテト設立、86年には春秋を設立して飲食店の経営にも乗り出している。代表作に「バー・ラジオ」「無印良品」「グランドハイアット東京」「ハイアットリージェンシー京都」など。92年より武蔵野美術大学教授を務める。

註3 飯島直樹
1949年生まれのデザイナー。西武百貨店、スーパーポテト(76~85年)を経て、85年に飯島直樹デザイン室設立。代表作に「新文芸座」「新宿高島屋」「文明堂東京」、一連の「プレミアム ミッドサイズ オフィス(PMO)」など。 2011年より工学院大学教授を務める。

註4 倉俣史朗
1934年生まれのデザイナー。三愛、松屋を経て、65年にクラマタデザイン事務所設立。国際的な評価を受けて80年代のデザイン運動「メンフィス」に参加するなど、日本を代表するインテリア・家具デザイナーとして、その世界を切り開いた。1991年に死去。

註5 東京デザイナーズレストラン
「すべてのスペースグルマンに捧ぐ」と謳い、デザイナー(設計者)の存在をクローズアップしたレストランガイド。1995年から2002年までにホテル編、Special版(総集編)を含む全7巻を出版した。

橋本 夕紀夫(はしもと・ゆきお)
橋本夕紀夫デザインスタジオ代表。1962年愛知県生まれ。86年愛知県立芸術大学デザイン学科卒業後、スーパーポテトを経て、96年橋本夕紀夫デザインスタジオ設立。東京工芸大学教授。代表作に一連の「橙家」「炭火焼肉トラジ」のほか、「相田みつを美術館」(2003)、「水響亭 銀座」(2005)、「ザ・ペニンシュラ東京」(2007)、「ビルボードライブ東京(2007)、「故宮晶華」(2008)、「ロジラ」(2013)など。(写真:鈴木愛子)
馬場 康夫(ばば・やすお)
ホイチョイ・プロダクションズ代表:1954年東京都生まれ。成蹊大学卒業後、日立製作所宣伝部に勤務の傍ら、ビッグコミックスピリッツ「気まぐれコンセプト」(1981、書籍1984)の連載を開始。以後、ホイチョイ・プロダクションズとして書籍「東京いい店やれる店」(1994)、「エンタメの夜明け」(2007)、テレビ番組として「東京上級デート」(2012、現在も放映中)など多数の企画・制作、映画監督として「私をスキーに連れてって」(1987)、「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」(2007)などを手掛ける。(写真:鈴木愛子)