1998年の建築基準法改正で、確認・検査業務が民間に開放された。その後、「指定確認検査機関の確認で生じた第三者に対する賠償責任は、地方公共団体に帰することを肯定する」といった趣旨の判断が、最高裁で示された。この決定は、自治体の関係者に衝撃を与えた。仮に、民間の指定確認検査機関が行った確認に違法があったときには、自治体は損害賠償責任まで負わなくてはならないのだろうか。


 指定確認検査機関(以下、民間機関)であるA社は、横浜市内に建設する大規模分譲マンションの建築計画が建築基準関係規定に適合するとして、確認を下ろした。

 これに対して、このマンション周辺の住民らは、「マンションの建設で生命や身体の安全が害される」などと主張。A社を被告とする確認処分の取消訴訟を提起した。

「なぜ、市だけに責任を問うのか」

 しかし、係争中にマンションは完了検査を終えてしまった。その結果、行政事件訴訟法(以下、行訴法)9条に基づく「訴えの利益」は消滅し、この訴訟は却下されることになった。

 そこで住民は、確認の違法を原因とする損害賠償を求めるために、行訴法21条第1項の規定に基づき、訴えを変更する許可を申し立てた。被告もA社ではなく、横浜市に変えた。

 このような経緯には、A社の確認の違法性だけでなく、開発許可を“不要”とした横浜市長の判断を争点としていたことも背景にあったようだ。

 地裁、高裁ともに住民の申し立てを認めたので、横浜市は最高裁に抗告した。「A社を被告から外し、横浜市だけに賠償責任を問うのは承服できない」として、次のように主張した。

(1)民間機関が確認済証を交付した場合、その確認は建築主事から交付を受けた確認済証と見なされる(建築基準法6条の2)。

 ただ、その確認は民間機関の確認行為の主体を建築主事とするものではない。特定行政庁は、民間機関の審査時およびその後の報告時において、設計図書などの具体的な審査対象書類の提出を受けておらず、かつ具体的な審査手続きに関与していない。

(2)特定行政庁には、民間機関の違法な確認を防止する“消極的義務”はある。しかし、民間機関の審査の内容を積極的に審査する義務はない。市には、民間機関に対する監督命令や指定取り消しの権限がないためだ。

(3)市が損害賠償義務を負うことになると、結局、民間機関が行った確認検査について再度、特定行政庁でも建築設計図書などで個別・具体的な確認検査をせざるを得なくなる。

(4)住民の申し立てを認めることは、特定行政庁に過度な負担を強いることになる。

 そればかりか、独立して設けた民間機関の確認検査を、建築主事から交付を受けた確認済証と見なすという建築基準法(以下、建基法)の改正の趣旨を無意味にする。

(5)建築主との契約で業務を行って収益を上げている民間機関は、財団および株式会社などの法人であり、損害賠償の主体となり得る。国家賠償法(以下、国賠法)によって民間機関に対する求償が制限を受けるとなると、民間機関の責任の所在が不明確になる。ひいては無責任な確認を招く恐れがある。

 民間機関は、第三者に対する損害を補てんする賠償保険契約を保険会社と結んでいるので、賠償を命じられても賠償能力上の不都合は生じない。