3.9Gと呼ばれる新世代の高速WAN技術の中でも、もっとも早い時期にサービスを開始したモバイルWiMAX。その優位性は、一度でも使ったことがある人ならば、既に実感していることだろう。速度が速いだけでなく、コンピューターを起動するとダイヤルアップすることなくネットワークに接続し、まるで自宅の無線LAN環境下にあるように、ネットワーク接続を意識せずに利用できる。

 この気持良さは、使ったことがある人にしか分からない。

 そのモバイルWiMAXも正式サービス開始後、1年以上を経過した。6月14日には短期間でモバイルWiMAXの7000局もの基地局を整備したUQコミュニケーションズの田中孝司社長が会長になり、新たに野坂章雄氏が社長に就任した。前例がないほどの速いペースで基地局整備を進める同社だが、これまでと今からでは、何か大きな変化はあるのだろうか。

 そこで、UQコミュニケーションズの今後について、野坂社長に話を聞いた。

中国担当から日本に戻り、UQコミュニケーションズ社長となった野坂章雄氏。
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--- 事業準備の段階からモバイルWiMAXに取り組んできた田中氏が退任し、新たに野坂さんが社長になった。この人事によるUQコミュニケーションズの方針転換はあるのでしょうか。

【野坂】 田中体制では、基地局ゼロから始め、それを全国に展開するという難しいミッションをこなしてきました。正式な開業から年度内7000局まで増え、大都市だけでなく、全国の県庁所在地までカバーするようになったというのは、大きな業績だと受け止めています。確かに当初、実験サービス開始時のエリアが狭く、その印象を強く持たれた方もいたでしょうが、現在ではポジティブな意見が大多数になってきました。
 また、垂直統合でネットワークのインフラからサービスまで、すべてを一社で提供するのではなく、水平分業モデルでMVNO(mobile virtual network operator)を前提としたビジネスモデルの構築も、田中体制での大きなテーマでしたが、こちらも成功を収めています。
 私の仕事は、こうした田中が残した事業基盤を引き継いで、さらに発展させることです。

--- 今回の人事と前後して、UQコミュニケーションズは特に資金面で、従来よりもKDDIとの関係を強めています。KDDIからの独立性という面での変化はないのでしょうか。

【野坂】 我々はKDDIから出資を受けている立場です。KDDIとの連携を強めるのではなく、独立独歩でネットワークを整備し、単独でよりよいサービスを構築して行くことが、最終的にKDDIの利益になると考えています。我々の提供しているサービスは、とてもオープンなモデルですから、例えば他の通信事業者系の企業に我々のインフラを使ってもらっても構わないわけです。現時点でモバイルWiMAXを用いたWAN(wide area network)事業を展開する免許をいただいているのは、我々だけです。割り当てられた周波数はは国民の財産ですから、これを最大限の効率で活用するよう、大切にしていく必要があります。
 KDDIとは関係なく、あらゆる場所にモバイルWiMAXのエリアを拡大し、それによって単価を下げ、最先端の高速WANを安価に提供することが我々のやらなければならないことです。従来と同様にインフラ拡充を続けていき、その先進性が世の中に伝わるように努力していきます。

--- ここまで異例のハイペースで基地局数を増やしてきましたが、今後、投資のペースが鈍ることは?

【野坂】 既に、これからの1年間で8000局の増加を達成すると案内させていただいています。これまでの基地局設置ペースは維持します。設備投資額が格段に上がるわけではないが、鈍ることはありません。

--- 大都市、特に東京都内はかなりエリアのカバー範囲が広がってきました。室内での利用もリピーター設置が進んだのか、使えるところが増えてきています。今後、さらに地方への展開を強めていくのであれば、都心部での展開はひと休みになるのではと、心配しているユーザーも少なくないのでは?

【野坂】 接続できる場所が少ないというクレームは、かなり減ってきています。しかし、だからといって都心部の整備体制は緩めません。昨年と比較すると、今年はむしろ都心回帰の方向です。昨年は地方都市の整備に力を入れていました。こちらも隙間を埋めながら、さらに各都道府県の第二都市ぐらいまでエリアを広げていこうと考えていますが、それ以外は首都圏の隙間を埋めることに力を入れていきます。

--- それは首都圏のユーザー比率が高いから、という理由でしょうか。

【野坂】 市場が大都市中心ということもありますが、とにかく期待値を下回らないように、ということです。首都圏のユーザーには現時点でかなり満足していただいていますが、満足度が上がってくると、今度は期待値も上がってきますから、より高い品質を出していかなければなりません。

--- 今後、室内や地下などへの小型基地局やリピータ局の展開を進めていけば、都心部は徐々に3Gに近い感覚で使えるようになってくるでしょう。将来は3G携帯電話と同じように、日本全国をモバイルWiMAXのエリアで塗りつぶしていくのでしょうか。

【野坂】 どんな場所でも使いたいニーズはありますから、理想を言えば、その通りでしょう。10年先には実現したいですね。しかし、3年以内という話であれば、違ったアプローチの方が満足度は高められると思います。携帯電話は、固定電話と同じように受話器で”もしもし”とやれば、必ず通話できなければならない。我々はデータ専業ですから、スタート地点は違うと認識しています。

--- KDDI(au)が、EV-DOとモバイルWiMAXの両方を一度に提供するデータ通信カードと料金プランを発表しました。なかなかお得な料金設定ですが、こういった3Gネットワークとの併用について、何らかのプランはお持ちでしょうか。

【野坂】 我々はモバイルWiMAXの加入者向けサービスも行っていますが、一方でMVNOに対してインフラを提供する立場です。3GとモバイルWiMAXのハイブリッド型に関しては、MVNOに提案していくことだと考えていいます。

--- とはいえ、年内にはNTTドコモがLTE(long term evolution)のサービスを開始します。当面、おそらく5年以上は3GとLTEのデュアルモード端末が主流になるでしょう。LTEの位置付けはモバイルWiMAXにかなり近いと考えられます。ところがKDDIは、将来的に3Gの次はLTEをやると話しています。

【野坂】 モバイルWiMAXが目指しているところは、それらとは多少異なります。過去1年でパソコンへの内蔵を推し進め、かなり多くのモバイルPCに内蔵されるようになりました。そして、現在は次の段階としてモバイルルーターに取り組んでいます。さらにこの先には、デジタルカメラをはじめ、あらゆる携帯型デバイスに入っていく。その中には当然、携帯電話もあるでしょう。
 こうしたことを踏まえた上で、モバイルWiMAXはLTE時代にこそ発展するのではと期待しています。LTEが始まると速度で負けるから、モバイルWiMAXの時代は終わりだという人もいますが、理論上の速度と実際の速度は意味が違います。理論上の速度を実現するには、かなりの試行錯誤が必用ということが、経験上分かっています。
 モバイルWiMAXは着実に進歩しています。実効速度で言うと、私たちの場合は15Mbpsで始まり、現在は20Mbpsまで高速化しました。秋には30Mbpsになる予定です。時間をかけて実際のエリア内での実効速度を上げるための取り組みを続けてきました。またさらに高速化したIEEE 802.16mが商用化できる段階になっており、我々も対応する予定です。802.16mの世代になれば、最大で300Mbpsクラスになりますから、実際の速度でもLTEに匹敵するものになります。

--- UQコミュニケーションズでは、3Gとのハイブリッド型端末に関してコメントしづらいかもしれませんが、既に海外では3GとモバイルWiMAXのハイブリッド型端末は発表されていますね。

【野坂】 米SprintがEvoという端末を発表しています。これは面白い取り組みだと思います。今、国を挙げてブロードバンド大国にならなければという議論が進められていますが、家庭向けの固定回線を光回線化するべきという議論に、モバイル回線のブロードバンド化を戦略的に進めるべきという議論も加わってきています。一般のユーザーが手軽にブロードバンドを利用するには、ワイヤレスであることが必須ではないか、という議論ですね。そうした意味でも、いろいろなアプリケーションで活用できるよう、我々としては先行してエリアを充実させていきます。

--- 野坂さんはモバイルWiMAXの良さはどこにあるとお考えですか?

【野坂】 iPadにしろ、スマートフォンにしろ、すさまじい勢いでユーザー数が増えている。3Gよりも高速な通信サービスのニーズが出てくるはずです。まずは、3Gとは速度感が全く違うものだということを訴求するために、「スピードのりかえキャンペーン」を始めています。3Gとは、速度域が全く違うのだという主張です。
 もうひとつは、出先で3Gを用い、自宅ではWiFiといった使い分けが必要ないという点。速度面のストレスがなく、配線不要で接続料は業界最安値。しかも、期間の縛り、解約ペナルティーはない。あらゆる面で、ベスト・ベスト・ベストのWANサービスです。残るはサービスエリアの問題だけです。ここへの取り組みを積極的に行いつつ、世の中にアピールしていきたいと思います。
 UQコミュニケーションズはKDDIからの出向者も多かったのですが、今ではプロパー社員も増え始め、ベンチャー企業のように様々なことへと取り組む雰囲気、文化があります。そうした姿勢、文化を育てて、インターネットのサービスにも積極的に参加し、草の根レベルでユーザーとコミュニケーションできる会社にしていきたいですね。

--- 周波数帯域の新規割り当てについてパブリックコメントがありましたが、そこでUQコミュニケーションズは、モバイル放送が使っていた2.5GHz帯域の利用を希望したそうです。詳しくお話いただけますか。

【野坂】 6月下旬に各ワイヤレス事業者へのヒアリングがあり、どの周波数が欲しいのかを話す機会がありました。そこで、我々が既に持っている2.5GHz帯域に隣接していたモバイル放送の周波数20MHz分をIEEE802.16mで使いたいと申し込みました。

--- 完全に隣接した帯域であれば、間にガードバンドも必要なく、まるまる20MHz増える事になりますね。議事録を見ると携帯電話事業者は、700~900Hzあたりの空き帯域を求めたようです。とすれば、使える可能性は高いように思えます。

【野坂】 こればかりは免許の発給を受ける立場ですので分かりません。高速なワイヤレスブロードバンドアクセスサービスを提供してきた立場から、隣接する20MHzの活用についてお話してきました。ここを利用できれば、IEEE802.16mを用い、100Mbpsの光アクセスラインとシームレスにつながるワイヤレスブロードバンドを実現できるようになります。

 私は野坂氏に会う前、今後のUQコミュニケーションズとモバイルWiMAXサービスに関して、いくつか懸念していたことがあった。KDDIが展開するというLTEとの競合、LTEとの競合に伴なう3G携帯端末への組み込みの可能性、それに投資計画の変更などだ。KDDIがLTEへと投資をするのであれば、複数の技術への投資は効率が悪い。

 ところが、インタビューを終えて感じたのは、さらなるインフラ充実に向けた意欲である。前任の田中氏もワイヤレスブロードバンドでナンバーワンを取るという意欲に満ちた人物だったが、野坂氏もまた同様に意欲的な人物に見える。

 モバイルWiMAXは携帯電話やスマートフォンへの組み込みでは、W-CDMAとの親和性が高いLTEの方が有利と見る向きもあるようだが、必ずしもそうではないと思う。例えばSIMカード。モバイルWiMAXがSIMカードに紐付けられないことには有利な側面もある。

 SIMカードでひとつの契約を複数の端末に移動させながら使うことはできないが、そのかわりに、ひとつの契約に対し複数の端末を少額の追加料金で追加できる。データ通信端末が多様化している昨今を考えれば、この特徴は大きな長所だ。また、データ通信に特化し、現在の3Gネットワークと併用する端末が今後増加するならば、データ通信契約をSIMカードと切り離せることはプラスではないだろうか。

 次の世代、全く同じ技術で複数の事業者が全国のエリアマップを塗りつぶしていく必要があるのだろうか?そう考えると、LTEに対するモバイルWiMAXには大きな可能性が広がっている。