2012年9月12日、大学など高等教育機関の関係者を対象とした「2012 Adobe Education Forum」が開催された。同イベントはアドビ システムズが主催。今後の社会において、求められるクリエイティビティや教育分野へのデジタル技術の貢献を議論し、教育界に提案するのが狙いだ。

 米アドビ システムズでワールドワイド教育ディレクターを務めるトレバー・ベイリー氏(写真1)は、このような活動をアドビが推進する理由を「今後の教育現場では、創造力が必要と強く信じているから」と説明する。現場に足りないのであれば、同社のツールを提供する用意があるという。

 今回のイベントで同氏は、世界の教育界のトレンドやアドビの取り組みなどを紹介した。同氏によれば、世界の教育は今、変革が起こっているという。具体的には、学校と生徒のやりとりが大きく変わっている。技術面でそれを促進しているのが、デジタル端末の多様化、クラウドサービスの台頭、ソーシャルネットワークの普及だという。米国のベンチャー企業などが、これを後押しするサービスを提供し始めているほか、電子教科書の導入では、韓国やトルコ、ブラジルなどが積極的だとする。

 一方で、教育現場には課題も多い。例えば、米国の教育コストは増加傾向にあり、学費総額の平均は800万円にも達する。また、卒業時には、3人に1人しか学位に見合う仕事がないといい、残りは学位を生かしていない仕事に就かざるを得ないのだという。

 今後、教育現場に必要なものとしてベイリー氏が挙げるのが、(1)新しいカリキュラム、(2)コミュニケーションツール、(3)データのビジュアル化スキル、(4)クリエイティブな自己表現、(5)デジタル技術を使った物語の作成、(6)共同学習---である。続けて、オレゴン大学やケース・ウェスタン・リザーブ大学、レイクワシントン工科大学など、これらの一部を取り入れて、実績を挙げている学校を紹介した。

教育用コンテンツ共有プラットフォームを用意

 アドビ システムズの取り組みとしては、今回のようなイベントのほかにネット上で教育向けのコンテンツやツールを共有する「Adobe Education Exchange」がある。例えば、科学系の教授がビジュアル化した素材を共有したり、歴史学習で学生が演技をしながら理解を深めるような映像が人気を集めているという。

 このようなオンラインツールの利用は、国によって受け入れにばらつきがあるという。積極的なのは米国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど。一方で慎重なのが日本やドイツなどだという。

 このほかの教育関連の活動としては、研究機関との提携によって新技術を開発したり、教育界と産業界との対話の機会を設けたり、各地域の教育系財団に売り上げの一部を寄付したりしている。

 最近の活動として興味深いのが、米国、英国、フランス、ドイツ、日本の1000人ずつ、合計5000人を対象としたクリエイティビティに関する調査結果だ(写真2)。「経済成長にとってクリエイティビティは重要か?」という問いに80%が重要としたものの、「発揮できている」とするのは4分の1にすぎなかったという。

 また、クリエイティブな都市として最もたくさんの人が挙げたのは東京で、2位はニューヨークだった。一方で、日本では自国のクリエイティビティーが低いと考える傾向が強い結果となった。

「課題を解決できる人がもっと必要」と前慶応義塾長の安西氏

 イベントには、前慶應義塾長で、現在は日本学術振興会理事長を務める安西祐一郎氏もゲストスピーカーとして登壇。同氏は、「日本の教員は、これから10年で、100万人中の30万人が入れ替わる」「工業ではなく、サービス産業が主流になった現代に向く教育が求められる」「日本では国からの支援が少ないので、保護者の所得格差による教育格差が生まれている」「諸外国に比べて学生の学習時間が圧倒的に少ない」など、喫緊の課題を数多く挙げた。そのうえで、長期的な展望の下で教育を変革できるよう、「課題を解決できる人を増やさないといけない」と呼びかけた。

 また同氏は、グローバルなトレンドとしては、コミュニケーションの質とスピードが高まっているとの認識を示した。そこに対応できるスキルとして「自ら考え、自ら行動し、文化的背景の違う人と協力できる人材が重要になる」「答えのない問題を問題として認識し、迅速かつ確実に合理的な意思決定のできる力が重要になる」とした。

 このほか、同イベントでは、デザイナーの田川欣哉氏やシグマクシスの斎藤立氏、ホワイトシップの長谷部貴美氏らが登壇、クリエイティブティについて議論した。