東京都・豊島区立千川中学校は2012年6月20日、東京大学、日本マイクロソフト、レノボ・ジャパン、豊島区教育委員会が共同で実施しているICT(情報通信技術)を活用した授業を公開した。千川中学校では、「21世紀型スキル」の育成を目指す実証研究プロジェクトとして、2012年1月から、タブレットPCを活用した授業を実践している(関連記事)。

 21世紀型スキルとは、世界の教育科学者やユネスコ、OECDなどの国際教育機関が連携して考案した、21世紀の国際社会で必要な能力のこと。批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション能力、コラボレーション能力、情報リテラシー、地域と国際社会での市民性など、子供たちが身に付けるべき能力を規定している(関連記事)。

 こうした能力を育成するための新しい授業を検討・実践しようというが千川中学校でのプロジェクト。レノボ・ジャパンが40台のタブレットPC(ThinkPad X220 Tablet)を提供し、日本マイクロソフトがOfficeソフトやクラウドサービスの提供、専門家の派遣などを支援した。そして東京大学大学院情報学環の山内祐平准教授らが授業設計やICT活用に関する研修、助言などを行っている。今回は、2年生の理科と、2年生の特別活動における授業例を公開した。

 理科の授業では、「物質どうしの結びつき」をテーマに、「鉄と硫黄の化合」の実験を数人ずつの班に分かれて行った。その過程や結果をデジタルカメラで撮影し、タブレットPC上のメモソフト「OneNote」に写真を取り込む。そして実験結果やそれについての考察を班ごとに入力してまとめた。OneNoteには、ネットワークでつながった複数の端末で1つの“ノート”を同時に編集する機能がある。これを利用して、各班で入力した内容が自動的に全てのタブレットPC上に反映され、共有できるようにした。

 単にデジタルカメラやタブレットPCを使うだけではなく、批判的思考力や問題解決力、意思決定能力などを養うための要素も盛り込んだ。例えば、教科書に示された実験の手順に対して、なぜそのような条件が必要なのかを考えたり、条件を見直して結果を予測したりと、生徒が自分で考える場面を設けた。また、3種類の実験を班ごとに振り分けて実施し、その結果をOneNote上で共有しつつ、発表し合うことで、コラボレーション(チームワーク)の力も身に付けた。

 山内准教授によれば、「21世紀型スキルを育てるには、ICTを使って『頭に汗をかく』ことが必要。すなわち、高度な『課題解決型』の授業が必要となる」という。というのも、21世紀型スキルは、どんな仕事に就いても必要になってくる能力だとも言い換えられる。そして「どんな仕事にも共通しているものとは、問題を解決していくということだ。これが授業に組み込まれているかがポイントになる」。

 とはいえ、学習指導要領に縛られている現状の学校現場では、21世紀型スキルの全てを実践することは難しい。そこで山内准教授は、まずは批判的思考、問題解決、コミュニケーションと協働、情報リテラシーといった、学習指導要領の範囲内で実践できる部分から授業に取り入れるという“現実解”を提示する。「学校とは全く別の枠組みで21世紀型スキルの教育をやろうと思えばできる。しかし、学校の枠内でやらないと意味がない。先生が講義して生徒がノートを取るだけの授業から、タブレットPCを使うようになるだけでも意味がある。この第一歩がなければ、より高いレベルの教育にはならない。まずは一歩踏み出したというところだ」(山内准教授)。

 こうした取り組みは、先生や生徒にも好評だ。「これまで1時間の授業さえ我慢できず、飽き飽きしていた生徒も、タブレットPCを導入したら、最後まで楽しんで授業を受けられるようになった。先生方も最初は戸惑いがあったが、タブレットPCに触れて生徒が目を輝かせているのに触発されて、意欲的に取り組むようになった。21世紀型スキルという、21世紀に身に付けるべき能力について、学ばせていただいた点は大きい」(千川中学校の小林豊茂校長)。