和歌山市とマイクロソフトは2009年6月9日、ICT(情報通信技術)による学力向上について研究する「Wプロジェクト」の研究成果を発表した。Wプロジェクトは、和歌山市とマイクロソフトが2007年度から実施している取り組み。和歌山市内のすべての市立小学校52校に1300台のタブレットPCなどを導入し、「タブレットPCを活用した児童の基礎学力の向上」や「教員のICT活用能力の向上」などについて研究した。

 Wプロジェクトは、ICT活用の効果を大規模に検証したことが特徴。2007年度は「タブレットPC活用による基礎学力の向上」をテーマに2万169人の児童を対象に、2008年度はさらに「各教科でのICT活用」をテーマに加えて2万39人の児童を対象に研究を実施した。また、小学校の1048人の教員に対しても、ICTを活用した指導力の調査や意識調査などを実施した。

 和歌山市立教育研究所 専門教育監補の寺下清氏は、ICTの活用は「基礎学力の向上、思考・判断・表現力の育成に効果があった」と報告。タブレットPCによる学習効果の例として漢字の学習を挙げた。タブレットPCを活用したクラスと活用しなかったクラスで比べると、学習後のテストの点数の向上は前者の方が大きかった(図参照)。

 研究に参加した東京工業大学特任教授・名誉教授の清水康敬氏は、タブレットPCを活用した漢字学習の効果について、詳細な分析結果を披露した。清水氏は活用効果について、「学習の実施回数が多くなるほど、漢字学習を好きだと思う児童や漢字学習を得意だと思う児童が増える」「タブレットPCを使った授業を多く実施した教員ほど、ICT活用指導力が向上している」と分析。「和歌山の取り組みは先駆的で、世界的にもあまり例がなく非常に注目されている」とプロジェクトを評価した。

 また、和歌山市長の大橋建一氏は、「政策の重点課題の一つとして学力の向上に取り組んできた。ICTを効果的に活用することで、質の高い教育を提供できることが証明できた。この成果が和歌山から全国に広がることを期待したい」と語った。

 マイクロソフトは2006年度から2008年度にかけて、メディア教育開発センター(2009年3月31日に廃止、4月1日から放送大学学園に事業移管)と共に、ICTが学校教育をどのように変えるのかを実証する「NEXTプロジェクト」を実施。全国のモデル校で、ICT活用の実証研究を進めた。今回のWプロジェクトは、NEXTプロジェクトの一環。マイクロソフト執行役常務パブリックセクター担当の大井川和彦氏は、「大規模な実証実験で、ICT活用による学力向上を学術的に実証できた。Wプロジェクトは最も成功したプロジェクト」と述べた。

 成果発表に合わせて同日、和歌山市立有功東小学校でタブレットPCを利用した6年生の社会科の公開授業を実施した。授業は、児童1人1台のタブレットPCとマイクロソフトのメモ書き・情報整理ソフト「OneNote」を使用。グループに分かれた児童がOneNoteの画面共有機能を使って、「武士の暮らし」をテーマにした絵に対して、意見や感想などを書き込みながら学習を進めた。それぞれの児童は、ほかの児童の書き込みを見ながら、自分の意見などを記入できる。授業を担当した本岡明教諭は、「従来の授業では、一人の発言に対してみんなが意見を言うのは難しい。タブレットPCなら書き込みを見ながら、時間に縛られずに意見を交換できる」と、タブレットPC活用の効果について語った。