東京大学 大学総合教育研究センターとマイクロソフトは2009年3月4日、ICT(情報通信技術)を活用した先進的教育環境の開発に関する研究成果を発表した。同センターでは、マイクロソフトの寄付により「マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門」(以下、MEET)を2006年4月に発足。主にタブレットPCを活用した新しい教育環境の開発と、その学習効果について評価を進めてきた。今回、3年間にわたる活動を終了するにあたり、研究成果の報告が行われた。

 MEETではこれまで、「MEET Video Explorer」「MEET eJournalPlus」「MEET Borderless Canvas」という3つの学習支援ソフトを開発している。いずれも、MEETの目指す「アクティブラーニング」という教育環境を実現するためのツールで、「自分で問題を発見し、関心を深め、資料を読んで理解し、伝えて振り返る」という学習サイクルを支援するものだ。発表会では、これら3つの機能を紹介しながら、その学習効果について説明した。

 Video Explorerは、映像クリップを検索・視聴するためのソフトで、自分で問題を発見し、関心を深める活動を支援する。クリップを見ながら映像のグルーピングやマッピング、メモなどを行い、問題意識を深めることができる。東京大学では、NHKの協力の下、NHKが過去の番組資産を公開する施設「NHKアーカイブス」の映像を抜粋して利用。視聴した映像の中から、自分の関心のあるテーマを探す活動が行われた。

 研究の中では、Video Explorerを使って学生が能動的に映像を探索するクラスと、教員が一方的に資料映像を提示するクラスにおける学習効果の違いが検証された。その結果、前者ではクラス内でさまざまなトピックがバランス良く集まり、個々の生徒が自分なりの問題意識を深められたのに対し、後者では講師が紹介した問題をそのまま自分の問題として取り入れてしまう傾向が見られたという。Video Explorerを使うと、自分の関心に従って自分なりの問題を発見できると実証された形だ。

 eJournalPlusは、Video Explorerなどのツールを使って自分なりの問題を発見した後、それに関する資料を集めて読解する活動を支援する。電子化した資料に下線を引いたりコメントを付けたりしながら、文章構造を整理し、コンセプトマップやレポートの作成が行える。批判的な読解を通じて自分の考えを確認し、意見をまとめられるようにするためのツールだ。キーとなる文章を付せんのようなブロックに切り出し、グルーピングや関連付けをしながら可視化する。

 活用の効果としては、eJournalPlusを使って構造を図式化した場合、単に文章に下線を引くだけの場合に比べて、資料に書かれた主張を“根拠も含めて”理解できるようになったという。さらに、自分の意見についても根拠を付けて述べられるようになった。

 Borderless Canvasは、スライドを使ったプレゼンテーション形式の授業において、全員参加型の“議論するプレゼン”を実現するツール。発表者が投影するPowerPointなどの資料に、聴講者全員がタブレットPCを通じて直接意見を書き込める。

 利点は、分かりにくい点や反対意見をスライドにメモしたり、自分の提供できる情報を書き込んだりすることで、発表者と聞き手が能動的に議論できる点。書き込みをベースに細部にわたる質疑応答ができるなど、インタラクティブな発表が行われるようになったという。

 MEETではこれら3つのツールを、マイクロソフトが運営するオープンソースプログラムの公開サイト「Microsoft CodePlex」にて無償で公開。学習支援ソフトの新しい基盤として提供する。発表会の冒頭で挨拶した東京大学の岡村定矩副学長は、「MEETが行ってきた学習環境の改善やソフトウエア開発を、東京大学だけでなく他の大学とも連携して全国的に広げ、教育改革につなげたい」と、積極的に情報を発信していく考えを示した。

 また発表会に駆けつけたマイクロソフトの樋口泰行社長は、「日本人は非常に細かい点を得意とするが、逆に全体を俯瞰し合う批判的な思考、ディスカッションなどは苦手。そこでアクティブラーニングを通じて、それらをもっと教育の中に取り入れていく必要がある。そのような日本の教育における改善点を、ICTを通じて補完・強化していくことは可能。MEETはいったん区切りを迎えるが、マイクロソフトとしては引き続き教育分野で貢献できるように活動していくつもり」と語り、今後も企業市民活動の一環として、ICTによる学力向上や学校業務の効率化を支援していくとした。

■変更履歴
記事公開時、記事タイトルで「ITC教育」としておりましたが、正しくは「ICT教育」でした。お詫び して訂正します。本文は修正済みです。 [2009/3/11 19:25]