無線通信の環境が整う2009年。注目規格の一つに「IEEE 802.11n」がある。これは高速な無線LANの通信手順で、データ通信速度は理論上、最高600Mbps。現在の802.11g(通信速度は 54Mbps)の10倍以上の高速化を可能にする規格だ。米国電気電子技術者協会が標準化作業を進めており、現在はドラフト仕様の段階である。ただ、 802.11n対応をうたう製品は、すでに市場で数多く販売されている。これは、無線LANの普及と相互接続性の検証を行う団体「Wi-Fiアライアンス」が、2007年7月から802.11n ドラフト2.0に準拠した製品の認定プログラムを始めたため。Wi-Fiロゴを取得した製品なら、異なるメーカー製であっても問題なく接続できる。今回は、無線LANチップの大手メーカーであるアセロス・コミュニケーションズの大澤智喜社長に、802.11nの今後と無線LAN技術の展望について聞いた。

■改めて、IEEE 802.11nがもたらすメリットを教えてください。

 802.11nの最大のウリは、通信スピードがグンと速くなったこと。加えて、通信可能な距離が延びました。通信技術は通常、速度が上がると距離が短くなります。無線では、特にその傾向が顕著です。
 しかし、802.11nでは速度と距離の両方が向上します。規格の中に、電波を遠くまで飛ばすための技術が入っているのです。高速化の陰に隠れて目立ちませんが、通信距離が延びることと、それに伴って通信が安定することは、実際の使用において、とても大きなメリットだとユーザーに感じてもらえるでしょう。

■ドラフト仕様の製品が発売されていますが、問題はありませんか。

 802.11nのような新しい規格を決めるとき、最初にIEEE(米国電気電子技術者協会)の中に「スタディーグループ」を作り、技術面やビジネスの観点で価値があるのか、業界から多くの賛同を得られるのか、などを議論します。ここで良い感触を得られれば、次に「タスクグループ」に上がり、IEEE本体に提案するための規格書作りが始まります。規格が承認されるまでにさまざまな議論を経る必要があり、その間に「ドラフト2.0」などのいくつものバージョンが作られます。

 802.11nの規格がIEEEで最終的に承認されるのは、2009年の終わりから2010年初頭だと言われています。しかし、802.11nの中心となる規格はすでに固まっており、安定しています。だから、ドラフト2.0準拠の製品でも、異なるメーカーの製品間で通信しても問題は起こらないのです。しかも、802.11n規格化の議論に参加している主要メーカーの多くは、Wi-Fiアライアンスにも参加しています。今後、規格の内容が微調整されたとしても、Wi-Fiのロゴを取得した機器は、ソフトウエアの更新などで互換性を保証するでしょう。Wi-Fiのロゴは、こうした社会的な責任を負っているのです。

 802.11nの規格化で、現在議論しているのは、主にオプションの扱いについてです。検討中の内容は大きく2つ。一つは、2.4GHz帯での共存方法についてです。この周波数帯は工業(Industry)、科学(Science)、医療(Medical)の頭文字をとって「ISM帯」と呼ばれ、さまざまな分野で利用されています。このため、それぞれの無線機器がきちんと周波数管理をし、控えめに電波を出す仕組みにしておかなければ、相互に邪魔し合うことになってしまいます。もう一つは、「ビームフォーミング」。壁での反射などを考慮し、環境によって電波を送る方向を決め、回線の品質を向上させる技術です。

 こうしたオプションの議論には、時間がかかります。参加者の利害が複雑にぶつかり合う中で、どの程度の製品が作れるか、それがどの程度の特性や性能を持って市場に受け入れられるか、などを検討する必要があるのです。オプションとはいえ無視できない内容もありますし、技術の進歩によっては、実際にはほぼすべての製品に実装されるようなオプションが出てくる可能性があります。

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