2014年のサッカーW杯日本男子代表チームは、誰の目にも「惨敗」だった。それにもかかわらず、批判めいた報道はあまり見られないし、チームの帰国便が到着した空港では、結構歓迎ムードだったらしい。スポンサーへの配慮などさまざまな憶測はあるが、それにしても日本は、これまでの努力や実績など色々な要素を評価に包み込む心優しい国である。

 そんな心優しい国で、携帯電話のSIMフリー義務化を進めるという※1

 おそらく、今回の惨敗が他国だったとしたら、W杯チームを率いた監督は徹底的にその失態を責められ、公の場に出てくることすらできなかったであろうし、報酬の返還だって迫られたかもしれない。また、中心選手も、優勝するかのようなことまで口にしていたのだから、卵の1つもぶつけられたことだろう。選手が出演したCMの製品やサービスは不買運動が起こったかもしれない。他国選手の気合いの入れ方を見れば、個人の責任の重さを知ることができる。

 グローバルな市場では、今、そうした個人の責任を追及される他国の人々がしのぎを削って競争している。

 今回、SIMフリー義務化の方針をとりまとめた総務省の研究会は、消費者保護の観点からの中間報告ではあるのだが、良質な日本の情報通信市場に、SIMフリー義務化という競争原理を持ち込むべきだというのである。企業間の競争が、本当に消費者のメリットになるのかどうか、老婆心が過ぎるかもしれないが、あまりにも心優し過ぎて、どうにも心配でならない。

 功利主義的な古臭い経済の理屈に従うならば、規制をなくし、自由競争を促した方が、価格も下がり、製品やサービスの質が向上する。だから消費者にとってもメリットがある、のかもしれない。しかし、現代の市場には公平で自由な競争など存在しない。

 市場競争に打ち勝つために米国は、国境を越えて、日夜、集団的自衛権を行使しなければならないし、EUは国境を取り払って市場を拡大し続けなければならない。日本だって、日銀がせっせと国債を買って「円」を増産してその価値を引き下げている。生産に必要なエネルギーや流通の拠点が不足する国々では、国境さえも武力で変えてしまわなければならない。世界の国々は、それほどまでに切羽詰まった厳しい競争に晒されている。

 今や、世界のすべての国は至上主義ならぬ市場主義である。競争に打ち勝つために、国家が市場に介入することが当たり前なのである。国家の運命を左右する情報通信市場において、SIMフリー化を義務付け、競争を喚起することは、その市場を開放する方向に舵を切ることを意味するのではないだろうか?

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