多摩大学大学院教授の田坂広志先生は、インターネット社会を「誰もが『ダ・ヴィンチ』になる社会」と評した。ネットを活用することで、誰もがダ・ヴィンチのようにマルチな才能を発揮して活躍し、いくつもの人生を同時並行で生きられるからだ。

 実は私も、ネット上の不思議な同好会「電線クラブ」に誘われたことで、「電線写真家&詩人」というもう一つの人生を歩むことになった。その結果、仕事の息抜きができるばかりか、毎日が楽しくなり、人生が輝きを増した。好みが似通った友人にも出会えた。

 電線クラブのメンバーは、電線のある面白い風景や、美しい電柱や鉄塔に出合うと、すかさずデジカメやスマホのシャッターを切る。そしてすぐさまTwitterやFacebookに投稿。それをみんなで「コメント」し合い、「いいね」とほめ合う。

 たったそれだけのことだが、ここには「人生を幸せに導く魔法」や「ネット社会の未来図」に対する重大なヒントがある。私の体験を基に、ネットで広がる世界の可能性を考えてみたい。

ハッシュタグだけの集まり

 電線クラブには、入会資格や規約もなければ、会費もない。デザイナーの河野史明さんが、Twitterで「今日の電線」という一連のツイートをしているうちに、仲間が「電線クラブ」を作ろうと盛り上がり、自然に結成されたらしい。ハッシュタグを「#電線クラブ」と付けて各自が写真を投稿すれば、簡単にネット上で「寄り合い」ができる。こうしたゆる~いつながりが気楽でいい。

ほめられてつながれば楽しい

 私はもともと電線に引かれていて、何気なく写真を撮ってはツイートしていた。それを河野さんに見つけられ電線クラブに誘われた。何気なくハッシュタグを付けてみたら、なんと真剣にコメントしてくれる人がいる。まさか電線に熱烈反応する好事家がいるとは驚いた。身の回りにはいない電線オタクが、深く語り合える友人が、顔も合わせることなく、一気にできたのだ。

気が付くと電線を探す私

 私の電線写真を見てくれる人がいる。そう思うだけで、私は断然やる気になった。気が付くと、美しい電柱はないか、面白い電線の風景はないか、と探している。これだけで、単なる移動時間が「宝探し」の時間に変わる。最初は気合を入れて探していたが、不思議なことに、やがて電線の方から目に飛び込んでくるようになる。つまり「電線センサー」の感度がアップしたのだ。

ジャマな電線がいとおしくなる

 さらに驚くべき心の変化が起きた。私はこれまで、東京スカイツリーや富士山など好きな絶景を撮影する時、電線や電柱を外した構図を選んでいた。ところが今は逆。あえて電線と組み合わせて美しい写真は撮れないかと歩き回っている。これはすてきなことだ。邪魔に思えていたものが美しく見えるようになれば、人生は変わる。

電線写真を見ると誘ってしまう

 加えて、TwitterやFacebookで電線の写真を投稿している友人がいると、うれしくなって電線クラブに誘うようになった。役割やノルマがあるわけではない。むしろ会費や例会など面倒なハードルがないのがいいのだろう。また、お誘いが簡単なことも大きい。コメントに「電線クラブに入りませんか?#電線クラブとつけてツイートするだけです」と添えるだけでよい。そして入るも入らぬもお互いの自由だ。

実際に会えば話題の宝庫

 電線クラブの仲間に一度は実際に会いたいと思ってネットに書き込んだら、4名の主要メンバーが集まってくれた。さぞかし電線バナシばかりになると思いきや大違い。たかが電線に愛情を注げる人は、電線以外にもさまざまなこだわりを持つ「モノ好き」ばかりだった。あらゆる面白いモノに話題は飛び火。なおかつ他人が愛する未知のモノにも好奇心を抱き、敬意を忘れない。

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 ネットは世界を広げるための「扉」となる。時間やお金を掛けずに、新しい人生を切り開けるのだ。

出典:日経パソコン 2012年10月8日号
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