総務省は4月、「フューチャースクール推進事業」の成果をまとめた「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン(手引書)2012」(以下、ガイドライン)をWebサイトで公表した。

 フューチャースクール推進事業は、2010年度から総務省が文部科学省と連携して進めている事業。2010年度は全国で10の公立小学校を、2011年度には中学校および特別支援学校を加えた全20校を実証校とし、さまざまな実証研究を行ってきた。実証校には、担任や児童・生徒に1人1台のタブレットPCを使わせて、全ての普通教室にインタラクティブ・ホワイト・ボードを配備。無線LAN、クラウド・コンピューティング技術の活用といったICT(情報通信技術)の環境を構築している。なんとも羨ましい環境だ。

 ガイドラインは、その実証研究により明らかとなったICTに関わる課題や留意点について、学校や教育委員会など教育関係者の参考となるようにまとめられている。さらに、ICTの側面だけでなく、実践授業を紹介するなど、教育の内容にまで踏み込んで検証されており、大変参考になる。中でも筆者が注目したのは、(1)2年間の研究を終えた小学校における課題を具体的に明らかにしていること、(2)タブレットPCの家庭への持ち帰りの実証研究を行ったこと、(3)災害時における学校ICTの活用を研究していること──の3点だ。

 学校にICTを導入すると、年度替わりにシステムの変更が必要になる。教員の異動、児童の入学・卒業・転出入、学級数の増減、担任等の変更、機器の整備、データの整理など、やらなければならないことが山ほどある。こうした課題について、ガイドラインにはかなり詳細に記述されている。フューチャースクール推進事業は、専門業者が全面協力しているので、技術者やICT支援員にサポートしてもらえる。だが、同様の取り組みが一般の学校に広がった場合、こうした作業を教員だけでできるのかが課題になる。

課題はあるが大きな可能性

 それでも、文部科学省が定めたICT活用指導力の基準チェックリスト(自己評価)によると、教員のICT指導力は大幅に向上している。これは大きな成果であり、行政によるICT環境整備の後押しとなるだろう。どんなに環境を整備しても、使うのは教員なのだから、教員のスキル向上も必要である。

 なお実証校の児童を対象にしたアンケートを1年目と2年目で比較すると、学習、教え合い、発表などに対する意欲は高まっているものの、コンピューターの画面の見やすさや、文字や絵などの書きやすさについては、前年度より評価が下がった。デジタルとアナログのバランスを考えさせる結果だ。

 家庭でもインターネットに接続できる環境があれば、学校と同じ学習や継続した学習ができる。ICTは学校と家庭を強力に結んでくれるものなのだ。実証校では、タブレットPCを児童に持ち帰らせ、学校と同じアプリケーションを使えるようにした。インターネット回線はデータ通信カードで提供しているが、オフラインでもデータ更新が可能で、学校でサーバーに接続すると同期される仕組みだ。

 ただし、データの同期に対応していないアプリケーションでは、更新データをサーバーに手作業でコピーする必要があった。これは児童には困難な作業だったようだ。とはいえ、夏休みや冬休みに、家庭で学習の続きや復習ができることは効果が大きい。また、タブレットPCのカメラ機能は自由研究に活躍するだろう。持ち帰り実証研究は、大きな可能性を残している。

 一方、東日本大震災の発生時には、東京でも多くの学校が地域住民と帰宅困難者のための避難所を開設した。筆者の勤務校もその一つだったが、初めての経験で、通信環境のことまで考える余裕はなかった。ガイドラインは、そのような場合に被災者にインターネット環境を提供する事例や、学校に自治体機能を一時的に移設する事例まで紹介していて、とても参考になる。

 ガイドラインは、課題は課題として明らかにしているし、ポイントは具体的かつ詳細に書かれている。教育関係者だけでなく、一般の方にもぜひ一読してもらいたい。

出典:日経パソコン 2012年5月28日号
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