アメリカの司法省が、電子書籍価格設定の調査に乗り出したというニュースは、とても興味深い。

 これは、アップルが電子書籍販売を開始する直前に大手出版社と協議して、それまでの電子書籍販売の方法を改め、出版社自身が小売価格を決定できるようにしたことに関するものだ。日本流に考えると、「出版社が値段を決定するのは当たり前ではないか」と思われるかもしれないが、アメリカではそうではない。

 アメリカでの書籍は、従来のプリント(紙)版も電子書籍も、卸業者や流通業者が出版社から買い取って、それを小売の書店に売り、書店側が自由に販売価格を決めていた。出版社の卸値はだいたい想定小売価格の50%と言われており、そこに流通コストともうけ分を上乗せした額を、書店は店頭に並ぶ書籍に付けていた。日本のように書籍に対する再販制度がないので、小売店が状況に応じて値段を決め、必要に応じて値引きなどを行っていたわけだ。

 大手書店チェーンなどはごっそりと買い上げるため、出版社からの卸値にも融通を利かせてもらっていた。バーンズ&ノーブルや、倒産してしまったボーダーズが、さらに値引きをして、町の書店よりも安く売って客を集めていたのは、そんな背景があったからである。

 電子書籍も、当初は同じように始まった。アマゾンは出版社からほぼ50%で書籍を買い、それに独自の価格を設定していた。しかもアマゾンの場合は、電子書籍市場を確立させようと、赤字を覚悟で仕入れ値をさらに下回る額で売っていたのである。

Amazon.comのKindle Store。さまざまな価格の電子書籍Kindle eBooksが並ぶ
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 例えば、26ドルの想定小売価格の電子書籍の場合、13ドルで仕入れたアマゾンは、そこからさらに3ドル以上の出血サービスをして、9.99ドルという値段を設定した。「へぇ~、電子書籍は9.99ドルなんだ」という意識がアメリカの読者の間には広く定着したのだが、これは何も出版社が「電子書籍は、ぜひお安く提供したい」と考えてやったことではない。アマゾンが独自に付けていた値段なのだ。

 出版社側はこれを歓迎していなかった。アマゾンが提供する電子書籍コンテンツ「Kindle Books」が発売し始めた2007年当時、出版社にとって電子書籍はまったく見通しの悪い事業で、プリント版こそ収入の糧。そこへ、9.99ドルなどという激安価格でアマゾンが電子書籍を売ると、プリント版がひどく割高に見えて消費者が買い控えをしてしまう。出版社はそう怖れていたのだ。歓迎はしていないが、アマゾンを敵に回すのはよろしくない。いったいどうしたものか。

 そこへ白馬に乗ってやってきたのが、アップルだった。

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