3月11日に発生した東日本大震災では、津波の被害に遭った学校で、多くの尊い命が奪われた。まずは心から哀悼の意を表したい。

 犠牲者の出た学校はもちろん、子供たちを無事避難させられた学校でも、復興への課題は山積みである。津波に遭った学校では、職員室や校長室、事務室などにあった紙の書類が軒並み流されてしまった。指導要録、卒業生台帳、学校史など、紛失してしまったら元に戻せない貴重な情報ばかりである。

 紙だけではない。重要なデータが保存されていたパソコンや校内サーバーも一気に流されてしまった。全ての情報を学校の中だけで保管していると、今回のような想定外のことが起きたとき全てを失う恐れがあるわけだ。

 この問題を解決するものとして注目されているのが、「教育クラウド」である。ネットワーク上にあるサーバーのサービスを端末から利用するクラウドコンピューティングの仕組みを、教育向けに特化したものだ。

 教育クラウドは、既に複数の会社が提供しており、校務処理、成績処理、グループウエア、学校Webサイト、デジタル教材などのクラウドサービスが提供されている。データを国内外のデータセンターに分散させて保管するなど、自然災害によるデータの消失を防いでいて、安全性は高い。

 操作性の向上もメリットだ。以前からインターネットを介して提供する教育向けサービスはあったが、AというサービスはA社、BというサービスはB社というように、サービスごとに提供元が別々だった。そのためにインタフェースが違ったり、費用がかさんだり、管理が複雑になったりしていた。一方、最近の教育クラウドは、各種サービスを一元的に提供するものが多く、上記の問題を解決してくれる。

 教育クラウドの多くは有料だが、無料のサービスもある。日本マイクロソフトは、「Outlook」をベースにした「Live@edu」という教育クラウドを無料で提供中。また、経理・財務管理など学校運営業務を受託している学校運営機構株式会社は、学籍、成績管理、グループウエア、文書管理などの校務システムを、全ての学校を対象に無料で提供する計画だという。オプションの機能やサポートは有料のようだが、2012年4月をめどに開始したいとしており、早く詳細を知りたいものである。

普及するには4つの課題

 いいことづくめの教育クラウドだが、普及するにはいくつか課題がある。

 第一に経費だ。教育クラウドは、学校単位での導入でも意味はあるが、自治体単位で導入する方が効果は倍増する。グループウエアを利用することで他校との情報交換や共有が可能になるからだ。ただし、自治体単位での導入は大きな経費が掛かる。予算要求や仕様検討などにも時間がかかる。そもそも予算が通らなければ導入されないか、先送りになってしまう。

 第二に、個人情報の保護とセキュリティの問題がある。学校は個人情報の宝庫。特に児童・生徒の成績や指導内容などの保護は完全でなければならない。データそのものは安全に管理されていても、簡単に不正アクセスされてしまえば同じである。ちなみに筆者の勤務区では、校務処理にクローズドなネットワークを利用している。自宅からアクセスできない不便さはあるが、セキュリティは極めて高く安心だ。

 第三の課題は、帳票類の統一である。成績処理ソフトを導入する場合、通知表をはじめとする帳票類の様式を全校で統一する必要がある。ただ、それぞれの学校にしてみれば、今まで使っていた様式が変わることは歓迎できないので、抵抗があるかもしれない。特に通知表は公簿ではなく学校で独自に決められるので統一は難しい。説明や説得、落としどころなど、導入担当者は頭を抱えることになるだろう。

 第四に、紙の資料にどう対応するかという問題がある。パソコンのデータはクラウドに保管できるが、冒頭で書いたような過去の資産を含め、紙の書類や資料には対応が難しい。

 これらの課題はあるが、だから導入しないという方向性はない。再び想定外の出来事が起きたときに、「教育クラウドにしておいてよかった」と言えるためにも、検討を進めるべきだ。

出典:日経パソコン 2011年11月28日号
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