やっぱり早い者勝ち?

 すでに音楽CDがデジタルだったこと、MP3などの技術によりインターネットで流通可能なデータサイズになったことが、音楽が早くに電子流通に移行した要因でしょう。また、このタイミングで、それまでポータブル音楽プレーヤーといえば家電メーカーの製品だったのが、アップルをはじめとする非家電メーカーへと主導権が動いていったということがあります。日本のメーカーは、コピー管理などの技術に拘泥するあまり最初の波に乗り遅れました。また、パソコンと接続して使うという音楽プレーヤーに対して、家電メーカーには、ある種の嫌悪感というか拒否反応があったともことも否めません。

 ですが、どうでしょうか。結局、現在では、音楽は携帯音楽プレーヤーに入れてしまえば、そこから取り出すことは困難でも、元データはコピーフリーな通常のMP3形式でも販売されており、事実上、音楽CDの時代のように自由にコピーできる状態に戻りました。

 本を送るとスキャンしてくれるサービスを始めたところもあります。また、オークションサイトなどでは裁断済みの書籍が流通しはじめています。大手の古書店チェーンなどが「裁断済み」書籍を買い上げるのも時間の問題ではないでしょうか。そうした店の隣に、スキャナーを時間貸しする店ができて、そのうち、裁断済みの本を見せれば、引き替えにスキャナーデータを売るといったことも横行しそうです。

 音楽にはMP3という事実上の標準がありましたが、「自炊」には、今のところ決定的と言えるような型式はありません。ここが音楽と書籍での違いです。ですが、たとえ「画像」ファイル形式であっても、画像認識により、あとからテキストを付けるといったことは、いまでは困難な技術でもありません。また、最近の機器では、発売後にオンラインでファームウエアのアップグレードが簡単に行えるため、他の型式に対応することも不可能ではありません。この点では、音楽がMP3化したころとは少し状況が違います。だから、前述したように、リーダーやフォーマットはなんだっていいのです。問題は、デジタル化した書籍などのデータをどう流通させるかです。

 音楽のことを考えると、今回も、早期に対応した方が「勝ち」となる可能性が否定できません。音楽のときには、プレーヤーを用意したアップルが主導権をつかんで、音楽流通の仕組みを構築しました。ですが、必ずしもハードウエアメーカーが有利とも限りません。現在では、携帯電話やスマートフォン、パソコンなどさまざまな機器が電子書籍に対応可能な性能を持っています。また、米国では、日本などに比べると携帯電話が遅れていて、音楽再生のプラットフォームになり得なかったという背景もありました。

 黒船が来たときの幕府みたいにみんなで議論していてもどうにもならないのではないかと筆者は思っています。多数の「自炊」までして電子書籍を読んでいるユーザーがいることは、そこに潜在的な大きな市場が眠っている証拠と言えます。先行した者が勝者になる保証はありませんが、有利なのは間違いないのではないでしょうか。そして、日本の企業だけが有利なのではありません。海外の企業なども同じスタートラインにいるのです。

 これまで日本に支社を作ったり、日本の出版社と契約したりして翻訳書を出していた海外の出版社が、自社の書籍を自ら他国向けに翻訳して直販するという可能性もあるでしょうし、他社の運営する「電子書店」に流すという可能性もあるでしょう。インターネットなので、ユーザーは、どこの国の企業が運営しているのかについては何も気にしません。買いやすいところから買うということになると思われます。実際、海外ホテルの予約サイトなど、表示は日本語でも、海外企業が運営しているものも少なくありません。また、米アマゾンから直接本を買うことも珍しいことではありません。

 自動翻訳の技術も進歩しているし、米国では、翻訳を専門に行う企業があり、米国の大手企業のWebサイトの翻訳などを短期間に行っています。日本語の書籍を扱えるのは、日本企業だけではないのです。

 そういうわけで、今、問題にすべきは、紙の本がデジタル化/電子化することではなく、デジタル化により出版物の流通が変化しようとしていることなのです。

この先は会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は申し込み初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら