数カ月前、スタンフォード大学の学生寮を見学する機会を得た。

 アメリカ有数の私立大学とあって、その豪華さにびっくり。新旧いろいろな建物があるが、どれも日本で学生寮という言葉から想像する場所とはかなり異なっていた。中庭がある、まるでリゾートホテルのような寮、大きなラウンジにグランドピアノが置かれている寮、地下にテレビを見る部屋やピンポンを楽しむ娯楽室のある寮などなど。

 2~4人部屋が多いらしく、それもベッドとデスク、クローゼットなどが造り付けのゆったりした造りである。大学院生で結婚していたりすると、夫婦寮という、アパートと大して違わないような立派な住まいも与えられる。

 「優雅なことだなあ」と感じることしきりだったが、日本からは、あるいは私の世代からは想像がつかないようなこともあった。男女共同寮である。

 一般的に「co-ed」と呼ばれる男女が一緒に入居する寮は、以前からアメリカの大学にはあったし、今では日本でも珍しくないのではと思う。階ごとに男女を分けるとか、一部屋ずつ男女部屋を交互に並べるとか、そんな工夫もいろいろあった。

 だが、今のco-edはまったく違う方法で採り入れられているのだ。

 まず男女共同部屋。例えば、男子学生2人と女子学生1人が同じ部屋に入るといったようなことがある。あるいは、男女が1人ずつ同じ部屋に入る。

 何も、彼ら男女は恋人同士というわけではない。まったくただの学生同士だ。それが男女一緒の部屋とは、どういうことか。寮の部屋では着替えもしなくてはいけないし、無防備な寝顔もさらすだろう。それが同じ部屋である。

 この男女同室というのは、スタンフォード大学だけに限ったことではなく、私立、公立を問わず全米の大学で広まっていることらしい。最大の目的はホモセクシュアル(同性愛)や異性になったトランスジェンダーの学生を入居させるためだという。つまり、男同士、女同士ではかえって抵抗を感じる学生のための処置で、日常生活で身の危険を感じたりソワソワしたりすることなく、学業に打ち込んでもらおうということなのだ。

 こうした部屋には今や新しい呼び方があって、それは「gender-neutral(性の中立性)」である。性別によって分けない、男女の別については問わないというものだ。

 もちろん、この動きに学生の親の世代から大きな異議申し立てが起こっている。「うちの娘を男どもと同じ部屋に入居させるとは、どういうことだ!」という騒ぎがスタンフォード大学でもあったという。学生は寮への入居を申し込む際に、部屋の希望を書き込むことができる。親が騒いだこのケースに限って言えば、この女子学生は寮の部屋決めをするミーティングに欠席したために、gender-neutralの男女2人ずつの4人部屋になってしまった。親はカンカンだが、娘の方は「騒いだら、あとの3人に悪いから」という理由で、この部屋にとどまったらしい。

 Gender-neutralはバスルームにも適用されている。だいたいのバスルーム(トイレとシャワーが設置されている)は男女別になっているが、中にはgender-neutralなバスルームがあって、男女両方が利用できる。

 トランスジェンダーの学生や、性に対してはっきりしたアイデンティティーを持っていない学生が利用しやすいように設けられているもの。ただ、普通の学生でも「男女、男女と、うるさく分けられたくない」という主張をする利用者もいるらしい。バスルームの造りは、オープンさとプライベートさが組み合わされたようになっているのが興味深かった。

 こうしたgender-neutralな部屋やバスルームは、大学側の寮計画事務所が学生グループと話し合って設けるもので、最初は試験期間を設定して利用状況を観察し、うまくいくと見れば、その後はちゃんとした施設として学生への選択肢に加える。

 何でもスタンフォード大学は、寮環境の計画についてもリベラル派として知られているらしく、全米の大学の先陣を切って施行されていることも多いという。若い世代はとかく分かりにくいものなのだが、彼らはわれわれとはずいぶん異なった環境で生活しているのである。「時代は変わっているのだなあ」と実感したわけである。