上原 哲太郎 京都大学 准教授

 政権が何かと混乱しているため、あまり話題になっていませんが、去る2010年5月11日に内閣官房IT戦略本部による「新たな情報通信技術戦略」と、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)による「国民を守る情報セキュリティ戦略」が決定され、それぞれ公表されています。これにより、政権交代以来停滞していた国のIT戦略がやっと仕切り直しされ、再始動したような感があります。もちろん、次の選挙で政権がまた代われば見直される可能性はありますが、とりあえず当分の国のIT戦略の上では重要な決定と位置づけられるでしょう。

 これらの決定の中で、個人的に注目しているのが「国民総背番号制」の行方です。国民総背番号制は、行政において国民に関する情報を統一的に管理するために不可欠のものとされ、特に行政事務の電算処理を効率化するためのものとして何度も導入が検討されてきました。しかし、そのたびに政府による国民への干渉が過剰になりかねないなどの懸念が出され、断念されてきました。

 現在、この国民総背番号に最も近い仕組みは住民基本台帳に記載されている「住民票コード」、つまり住民票記載の全国民に対して11桁の番号を付与するものです。これは、皆さんご存じの通り住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を構築する際に設けられたものですが、この仕組みがさまざまな批判にさらされた結果、現時点では限定された活用にとどまっています。

 しかしその後、「浮いた年金記録問題」などがあったことで、社会保障番号の導入が検討され、さらに納税者番号と紐付けして実現することも検討されはじめたことがたびたび話題になりました。今回の「新たな情報通信技術戦略」では、これを発展させた「国民ID」を2013年までに導入することが明記されました。

 今回導入が進められることとなった国民IDの概要は次の通りです(理解しやすいように原文と記述の順番を入れ替えてあります)。

(1)府省・地方自治体間のデータ連携を可能にする電子行政の基盤と位置づけ、各種行政手続きの際、既に行政機関が保有している情報について記載、添付が不要となるよう活用していく。

(2)個人情報保護を確保するため、国民IDの行政機関における運用・アクセス状況を監視する第三者機関を創設するとともに、行政機関が持つ情報を国民自身が確認できる仕組みを導入する。

(3)公的ICカードについては整理し、合理化する。

(4)インターネットを通じて利便性の高いサービスを提供するため、民間IDとの連携可能性を検討する。

 これらそれぞれについて、議論すべき点は多くありますが、今回はそのうち「国民総背番号制のデザイン」としての「国民ID」という点から少しお話しします。

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