わが墨田区が誇るカレーの隠れ名店SPICEcafeは、駅から徒歩15分の路地裏という厳しい立地にある。しかし創業後5年で、地元のみならず遠方のファンにも愛されて大繁盛。私も友人知人を数多く案内したが誰もが深い感銘を受ける。

 それは、オーナーシェフの伊藤一城さんはじめスタッフが、時には常識にも反する「独自のおもてなし」を心がけているからにほかならない。そこには、多くの中小企業や個人事業主が目指すべき「心あるオンリーワン戦略」がある。さらに「ネット繁盛」にもつながるヒントが隠されているのである。

1.迷路の先にワクワクする隠れ家

 チェーン店ならこの立地には絶対出店しない。しかし路地裏を迷いながらようやくたどり着いた「隠れ家」に喜ぶ人もいる。立地の悪さより下町小冒険旅行のワクワクが勝るのだ。ネットもそう。目立つモールへの出店や広告出稿もいいが、雑多なブログ迷路のネットコミをたどり歩いて見つけた「新名店=隠れ家」の楽しさは忘れたくない。

2.Web2.0より築45年の懐かしさ

 おしゃれなお店は東京に山ほどある。しかし実家の築45年の木造アパートを手作りで改築した店の魅力は絶大だ。路地裏の奥に広がる昭和30年代の懐かしい住宅は、世代を問わず魅了する。

 ネットの最先端を走るのは厳しくお金もかかる。それなら身の回りの古いもの懐かしいものを生かしてはどうか。これなら他社も一朝一夕に真似できない。

3.カレー一本に学ぶオンリーワン道

 シェフは開業前、3年間にわたり世界48カ国を回って料理を学び、その後4年間イタリア料理店やインド料理店で修行した。その経験を生かし、カレーに特化して極めることで評価を得た。

 ネットでも、豊富な経験や高い技術に根ざした「確固たる自己」が土台になる。その上で「オンリーワン」として活躍できる分野を絞り込んで専心すべきだ。

4.非常識?「修行につき今月全休」

 繁盛店にもかかわらず同店は毎年2月を丸々休む。客商売としては非常識だが、その休みは毎年カレー修行に充てられ、今年は南インドのホテルの厨房に潜り込んだと聞く。そして1カ月間辛抱した後で、常連客は新たに加わったメニューを楽しむのである。

 ネット商売は年中無休24時間営業と言われるが、お客様はそればかりを望んではいない。あくなき求道者が産み出す「毎年驚かされる新商品」ならば、待ってでも買いたいのである。

5.「家族のバラ」は外注できぬ

 先日、お店を訪ねた際、門前でシェフのお母様に会った。「今日はバラがきれいなのよ。見ていってね。」と笑顔で交わした一言に、狭い路地に咲き誇るバラの花々が輝いて見えたのだ。

 何でも外注しアウトソーシングしてお金で解決するご時世に、お店の周りを彩る花々までも家族で愛でていることを知るのは嬉しい。もちろん商品にもとびきりの愛情が込められていよう。

6.百戦錬磨のグルメを即、撃沈

 同行したコンサルタントがカレーを一種類決めた後、若い店員にちょっと意地悪な質問をしたことがある。「このカレーに合うお勧めのカレーは?」と聞かれると「お嫌いでなければ、私はマトンをお勧めします」と明言した。友人曰くこの質問に即答できるのは十人に一人もいないらしい。ネットのお客様も百戦錬磨。店長も店員も自分の好みを堂々と思い入れたっぷりで語ってほしい。

7.ギャラリーという無駄こそが源泉

 最近は予約でいっぱいになるこの店には、小さなギャラリーが併設されている。回転率を考えるなら、ここも8名がけの個室にすべき。だが、ギャラリーがあるから地元に愛され、ご近所アーティストの小さな個展をファンは楽しんでいる。ネット店舗でも一見無駄に見えるコミュニティが欠かせない。そこから対話や口コミが生まれ、新たなアイデアや商品も育まれる。この無駄こそが創造的ネットコミの源泉だ。

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 この愛すべき名店のような店主が、路地裏にもネットにも増えてほしい!

出典:日経パソコン 2008年6月9日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。