米Intelが発表した低消費電力CPU「Intel Atom プロセッサー」が、台湾パソコン業界に大きな波紋を投げかけている。

 Atomプロセッサーは、Intelがモバイル・インターネット・デバイス(Mobile Internet Device:MID)と呼ぶ携帯端末や、UMPC(Ultra Mobile PC)向けのCPUというだけではない。Atomプロセッサーにはもう一つの顔、「低価格パソコン向けCPU」という重要な役割があるのだ。

 Intelは、Atomプロセッサーの発表において、このCPUを採用した低価格パソコン「ネットブック」と「ネットトップ」という構想を明らかにした。ネットブックとは、インターネット環境を提供する低価格のノートパソコンのことで、台湾ASUSTeK Computerの「Eee PC」がその代表例となる。ネットトップは、ネットブックのデスクトップ版というわけだ。

 Intelは当初、発展途上国におけるパソコン市場の拡大に、Eee PCなどの低価格パソコンを当てることを計画していた。しかし、Eee PCが売れてきた市場を分析すると、発展途上国などの新興市場における売れ行きもさることながら、日本や欧米といった既にパソコンが普及している地域でも、インターネット利用に特化した2台目、3台目のパソコンとして売れていることが分かった。そこでIntelは、Atomプロセッサーを、こうした新しいセグメントのパソコン向けCPUにしようとしているのだ。

 Atomプロセッサーは、CPUアーキテクチャーそのものから新設計してある。最新の45nm半導体製造プロセス技術の採用によって半導体そのものの面積は25平方ミリ以下に抑え、チップサイズも13×14mmとコンパクトに仕上げた。その消費電力は2W以下で、最も低消費電力なモデルでは0.5W前後となる。

 Intelは、このコンパクトなチップサイズと低消費電力が、パソコン製造コストを抑える役割を果たすと説明している。実は、現在のパソコンでは、CPUなどの半導体コストだけでなく、ヒートシンクやクーラーなどの放熱用機構にもかなりのコストがかかっている。消費電力が大きくなれば、電源やきょう体の設計も見直さなければならない。Atomを採用した低価格パソコンプラットフォームでは、こうした追加コストの心配がない、というのがIntelの主張だ。しかもAtomの価格は、現在エントリーモデル向けCPUとして採用されているCeleronの半額以下で、最も廉価なものは20ドル前後となる。

 台湾のパソコンベンダーの多くは、Atomを採用した低価格パソコンを今夏にも投入する計画だという。Eee PCのような製品が、この夏には数多く店頭に登場することになる。ベンダーによっては、「Windows Vista搭載ノートパソコンを店頭価格500ドル以下で投入するため、開発を続けている」というところまである。

 ノートパソコンだけでなく、低価格デスクトップパソコンでも同様の計画がある。AtomにはベーシックなPC向けの“Diamondville”(ダイヤモンドヴィル:開発コード名)もあり、今夏には出荷開始となる予定。このCPUは、半導体そのものはAtomと同じだが、チップサイズがやや大きくなり、消費電力も4W前後となる。その一方で、Pentium 4などが採用していた、1つのCPUコアで2つの処理を並列して行う「Hyper-Threadingテクノロジー」をサポートし、処理能力の向上を果たす。また、近い将来、Atomのデュアルコア版も投入される計画だという。これらを受けて、台湾や中国のメーカーでは、Diamondvilleを採用したデスクトップパソコンを199ドルで市場投入する動きがある。これらの製品は、今年の夏商戦には日本市場でも販売される見通しだ。

 IntelがAtomを使ってネットブックやネットトップの市場を立ち上げることが、結果的に「価格競争の激化」につながると見るベンダーも少なくない。実際、これによりIT業界再編の幕開けとなる可能性は高い。

 Intelは、Atom搭載プラットフォームを、インターネット利用に特化した製品と位置付けているが、パソコン関連ベンダーの多くは、「より廉価なシステムを構築するための武器」と捉えている。ユーザーの立場からすれば、2台目、3台目のパソコンが廉価に入手できるというメリットは大きい。しかし、ベンダーから見れば、Atomの登場で価格競争はこれまで以上に厳しいものになる。あるベンダーの経営者は、「Atomは、中小ベンダーにとっては“原子爆弾(atomic bomb)”となるかもしれない」と指摘する。

 Atomプラットフォームは、携帯電話とパソコンの間を埋める新しい市場を創出し、パソコン市場を拡大する役目を担っているのは確かだ。しかし、その市場拡大を前に、体力のないベンダーはふるいにかけられ、強いものだけが生き残る。ある大手パソコンベンダー関係者は「日本企業も例外ではない」と警鐘を鳴らす。

 これまでハイパフォーマンス化が進んでいたパソコン。Atomの登場によって、「ユーザーにとって必要なPC」とは何か、そして、「購入したPCをどのように使えば満足感が得られるのか」、といった課題をベンダーは抱えることになる。こういった問いにしっかり回答を用意できた企業が生き残ることになるだろう。