韓国全土にある2800の郵便局には、誰でも無料でネットが使えるパソコンが置いてある。市内はもちろん、地方でもちょっとしたメールのやり取りや検索は携帯電話ではなく郵便局で済ませられるからとても便利だ。高いパケット代を払わなくても済むし。韓国の郵便局は情報通信部の傘下にあるためか、1999年からデジタルデバイドの解消のため「インターネットプラザ」という名前で無料インターネットカフェを運営していて、全国に3253台のパソコンが設置されてある。このPCのOSを2009年までにすべてLinuxにする計画が発表された。郵便局を皮切りに他の公共機関でもLinuxの導入が拡大されるのではないかとみられている。

 情報通信部郵政事業本部は2005年から、オープンソース・ソフトウエア(OSS)の活性化実証事業およびTCO(Total Cost of Ownership)削減のため、郵便局「インターネットプラザ」に1台以上はLinux PCを置くようにしている。すでに3353台のうち1265台はLinuxになっている。2007年から導入している新規PCにはすべてLinuxを搭載しているので、台数はもっと増えていくだろう。Linux PCを導入したことで導入費用はかなり節約できた。Windows XP Professionalの値段は15万7000ウォン(約2万円)だが、ハングルとコンピューター社の販売するLinuxは4万9000ウォン(約6000円)に過ぎない。

 しかし、いくらコストが割安でも、ユーザーが不便さを感じてはしかたがない。韓国はマイクロソフト依存度がものすごく高いため、2年ほど前までLinuxだと、インターネットバンキングも使えない、電子政府サービスも使えない、ショッピングモールで決済もできないなど、ネット利用を制限されることが多かった。そのせいか、Linuxは不便というのが一般論になってしまっていた。食わず嫌いとはこんなことだろうか。しかし、郵政事業本部の説明によると、郵便局を訪れた人々は「ずっと、これはWindowsのパソコンだと思って使ってました。Linuxって不便だと思っていたけど、ネット検索とかする上では問題ないんですね。」と感想を述べたそうで、OSSの認識を変えるのに役立っているという。

 まだ2007年7月時点で韓国のOSSのシェアは3%未満と言われている。このようにLinuxの利用率はまだまだ低いのだが、郵便局は特殊な例ではなく、韓国全体で少しずつ変化が生じている。政府機関である韓国ソフトウェア振興院も教育機関、医療機関、社会公共機関へのLinux普及に力を入れている。大学を中心に普及しているEラーニングをOSSで実現できないかといったことについてフォーラムも開催された。韓国のLinux関連企業もデスクトップ用OSを発表し、本格的にマーケティングを始めている。OSSの活性化のためには何よりもデスクトップPC市場への拡散が必要だからだ。ほかの取り組みとして、韓国の公共機関ではOSS普及のため、OSSを導入する際に、保守契約を定額で結ばなくてはならない決まりになっている。これまでは、使うのも無料、作るのも無料、みんなが共有するものだから保護されない、という考えから、OSSはお金にならないという理由でビジネス対象としてとらえられていなかった。でも保守ビジネスが成り立てば、OSSも立派なビジネスモデルになれるのではないだろうか。

 このようにOSS市場がにわかに賑やかになっている韓国だが、OSSを消費する人は多いが、開発に関わる人が少なすぎるという大きな問題が立ちはだかっている。OSSが活発な国ほど消費しながら生産もする開発コミュニティーがたくさん存在しており、活性化している。韓国にもいくつかのOSS開発者のコミュニティーが立ち上がっているが、参加率は低いという。アメリカではオープンソース関連コミュニティーが活発なのに韓国にはない、などの話になると必ず、英語ができる開発者が少ないからであり、言葉の問題さえなければもっと参加できるのに……というような話をする人がいる。

 しかし、これはおかしな話。韓国では就職のためにTOEICで900点は必須なのに、英語ができない? 英語ができなくてオープンソースのコミュニティーに入れないとは理由になっていないのではないか。日本だって英語が苦手な人が多いのに、韓国のマスコミの報道によると5000人以上のOSS開発者がいるという。韓国では100人にも満たない。英語がペラペラでないとOSSは開発できないものなのか? Windowsに振り回されたように、オープンソースでも輸入に依存するようなことになるのではないか心配だ。