一般ユーザー向けのOS「Windows Vista」は、さまざまな特長を持つ。日本語のフォント環境の刷新もその一つ。Windowsに搭載するフォントで、文字の形(字体)が変わったり、新しい漢字や記号が加わったりする。これらは、Windows 98で、JIS漢字(JIS X 0208:6355字)に補助漢字(JIS X 0212:5801字)が加わった1998年以来の大きな変化だ。

 日本語フォントの字体がVistaで変わった背景には、日本語をめぐる2つの施策がある。

 その一つは、国語審議会の取り組みだ。以前から、常用漢字表にある漢字は、印刷物などでその字体を使うことになっていた。ところが、表に載っていない漢字(表外漢字)は、標準となる字体が定まっていなかった。そのため、「書籍などの印刷物で一般的に使われている漢字と、パソコンの画面上に表示される漢字とで、字体が異なる」という問題が生じていた。こうした状況を受けて、国語審議会は2002年12月、表外漢字の印刷用の字体(印刷標準字体)を定めた「表外漢字字体表」を答申した。

 もう一つが、情報機器が扱う文字の種類や番号などを決める日本工業規格(JIS)の「文字コード」に関する施策だ。JISでは2000年に、漢字の不足を補うべく、第三水準と第四水準を規定した拡張漢字(JIS X 0213)の規格を作成した。さらに、表外漢字字体表の答申を受け、2004年に同規格を改訂して、「印刷標準字体」を採用した。Vistaでのフォント変更は、この最新規格に基づいたものだ。

「人」形の「葛」が表示・印刷可能に

 今回の変更は、Windowsに標準添付する「MS明朝」と「MSゴシック」(それぞれのプロポーショナル体を含む)の両フォントに対する(1)印刷標準字体への変更(2)拡張漢字の文字の追加の2点が柱となる。

 まず、字体の変更は、葛飾区の「葛」字などが該当する。これまでは左下の部分が「ヒ」の形の字体でしかパソコンで表示・印刷できなかった漢字だ。左下の部分が「人」形を正しい字としている東京都葛飾区役所などは、公文書でこの字体の漢字を使うために外字の利用を強いられてきた。Vistaではその必要がなくなり、普通にかな漢字変換して確定するだけで「人」形の「葛」字を利用できるようになる。このほか、固有名詞でよく使われる「逗」「辻」、主に一般名詞で使われる「祇」「晦」なども、Vistaで印刷標準字体に変わる。これらの漢字については変更後の字体の方がしっくりくるというユーザーは多いだろう。

 一方の追加になる文字は、既に収録されている補助漢字との重複を除いた、およそ900字の漢字が中心。ユーロ通貨や21から50までの丸付き数字などの記号類も含まれる。

 なお、Vistaは「メイリオ」という新しい日本語フォントも搭載する。ClearType技術を用いて、主に液晶画面上での見やすさを追求したフォントで、日本語の文章中に英単語が交じっていた場合のバランスの良さも特長だ。同フォントも印刷標準字体とJIS X 0213に対応している。

変更がもたらすトラブル

 日本語フォントの変更には弊害もある。Vistaが登場しても当面の間は、Vistaと従来のWindowsが混在した環境になる。たとえ自分の職場がVistaに全面移行したとしても、得意先や取引先が従来のWindowsのままということがあるだろう。Vistaで作成した文書を従来のWindowsの環境で開くと、「印刷標準字体」の漢字がそうではない字体で表示されたり、X 0213で追加された漢字が空白になったりという“文字化け”トラブルが発生する。

 また、同じVista上でも、例えばMSゴシックで作成した文書の書体を、印刷標準字体やX 0213に対応していない別のフォントに変えると、字体が変わってしまったり、書体が思い通りに変更されなかったり、といったトラブルが起き得る。

トラブル回避策を用意

 マイクロソフトは、こういったトラブルを最小限に抑えるために、2つの回避策を用意する。1つ目は、XPの日本語フォント環境をVista同等とする「JIS2004互換フォント」の提供。ユーザーは、Microsoft Updateを利用すれば、無償でフォントを入手できる。2つ目は、それとは逆にVistaの日本語フォント環境をWindows XPと同等にする「JIS90互換フォント」。こちらは、同社サイトの「ダウンロードセンター」で無償で入手できる。入手可能になる時期は、いずれも、Vistaの一般ユーザー向け発売と同時期だ。

 職場の日本語フォント環境を最新の国語施策に合わせるという意味では前者がお薦めだが、いろいろな事情からそれが容易でない場合もあるだろう。そういった場合のために後者の選択肢が用意されている。実際、前述の飾区役所もVistaに一斉移行するまでの間は「JIS90互換フォント」の利用を検討している。

■変更履歴
記事中の図【JIS X 0213:2004に対応して文字を追加】の中の説明文で、当初は「赤字部分が追加された文字」としていましたが、正しくは、これらは補助漢字で収録されている文字を含んでいます。お詫びして訂正します。図は修正済みです。[2007/01/06 16:15]
出典:日経パソコン 2007年1月8日号
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