米グーグルのヴィントン G. サーフ副社長兼チーフ インターネット エバンジェリストは2006年9月12日、記者会見を開きインターネットの現状と将来性について語った。サーフ氏はインターネットの基盤技術となっているTCP/IPプロトコルを設計し「インターネットの父」と呼ばれる。会見の要約と主な質疑応答の内容を紹介する。

 今から約35年前、1960年代から70年前半にかけて通信の革命が起きた。当時は電話など特定の用途に特化した回線しかなかった。電話をかけると交換機が相手に接続し、その間回線は占有される。革命を起こしたのは、交換機に変わるパケットスイッチングと呼ばれる通信方法だ。

 このパケットスイッチングがインターネットで使われている。基本的な通信は郵便ハガキに似ている。ハガキには送信元の住所、あて先、本文が書かれる。ハガキをポストに入れても、必ずしも相手に届く保障はない。実は、インターネットのパケット通信も基本は同じだ。

 例えば、郵便で本を送ると考えてみよう。送信手段はハガキだけとする。本からページを切り離して1枚ずつ送る。そのままでは順序がばらばらになるので通し番号を振っておく。相手が受け取ったときに、ハガキがいくつかなくなっているかもしれない。こうした事態に対処するため、送信元ではハガキのコピーをとっておく。相手にどのページを受け取ったのかを聞いて、必要があればコピーを再送する。TCP/IPでもやっていることは同じだ。パケットに番号を振り、順序良く並べて送り、パケットがなくなったら再送するのだ。

 郵便業者はハガキの内容に関係なく、相手に送り届ける。パケットでもその中に書かれているビットの情報には関係なく送信される。動画なのか、音楽なのか、Webページなのか、Eメールなのか、といったことは全く関係ない。言語も気にしない。単なるビットとして送るだけだ。

 これが1973年に開発されたインターネット技術をベースとした革命だ。なぜ革命的なのか。その理由は、メディアとしてあらゆる種類の情報を送信できることにある。テキスト、音声、動画など、従来のあらゆるメディアが発信してきた情報を送信できる。インターネットは究極の汎用メディアだ。さらに、新しいメディアとしての可能性もあふれている。GoogleカレンダーやGoogleスプレッドシートなど、新しいアプリケーションも生まれてきているのだ。

 究極の汎用メディアは、広告モデルも変えてしまった。グーグルで検索をすると、「これがあなたの探しているものですね。ところでこれは広告です」と提示する。広告主はクリックされるまで広告料金を払う必要がないし、クリックする人は確実にその内容に興味がある。このあたりが、グーグルが広告で収益を上げられる理由だ。

 携帯電話でも新たなステップが訪れる。グーグルはここでも同様のメディアを提供したい。例えば、携帯電話ではユーザーがいる場所を通知する機能を持っている。ユーザーの場所に関連した情報を提供するといった使い方が考えられる。これまで、ユーザーはネットに接続する際にひとつの機器だけを使ってきた。これからは、ネットにつながった複数の機器を連動させながら利用するように進化していくだろう。

―以下質疑応答―

■Google内でのあなたの役割は

 Googleはたくさんのアプリケーションを作り出そうと全社的に取り組んでいます。私はパケットスイッチングなどインフラを作り出してきたという経歴がありますが、用途を生み出すようなアプリケーションの仕事に関わりたいという希望を持っていました。グーグルはそのために最適の場所だったのです。

 開発者にアドバイスをすることもあります。開発チームが不可能なことに挑戦しているとき、単に「私は20年前にそれを試してできなかった」というのではなく「なぜ20年前にできなかったのか」を話すのです。なぜなら今はコンピューターの処理能力が違います。いまなら動く可能性はあるのです。開発にはリスクもあるので、失敗することもありますが、それでいいという風土がグーグルにはあります。

 グーグルではほかの会社よりも早いサイクルで新しいサービスをリリースします。タイトル部分に「ベータ」と書いてありますね。グーグルは、人々に早く公開することを重視しています。そうすればユーザーからフィードバックが得られるからです。

 エンジニアは就業時間の70%を通常の仕事に当てて、20%はほかの技術者のプロジェクトに参加します。10%は自分の好きな研究に費やすことができます。このような仕事のやり方をとっているのは、そこから面白いアイデアがでてくるからです。エンジニアの取り組んだ仕事のなかから、面白いものは外部に公開していきます。

■ネット中立化の議論についてはどうみているか

 米国では、グーグルのようなWebサービスを展開している会社から、一部のインターネットプロバイダーが料金を取ろうという動きが出てきています。こうした動きを防ごうというネット中立化の議論は、欧州などでも広がっています。

 まず言いたいのは、プロバイダーのユーザーは既にブロードバンド接続の料金を支払っているということです。ユーザーはどこへでも接続できる。ブロードバンドインターネットとはそういう意味であるはずです。高速回線の利用料という理由で、Webサービス会社から料金を取るというのは、ひどいことです。例えば、ベンチャー企業が新しいサービスを開発したとしても、ユーザーに提供することができなくなるでしょう。同じパケットを送るのになぜ追加料金がいるのでしょうか。

■Web2.0のインパクトをどうみているか

 みなさんも私も、結局Web2.0とは何だろうと不思議に思っているのではないでしょうか。Web2.0とは、つまりWebサービスを別の言葉で言い替えたものです。つまり、何かを売ろうと思ったら、効果的な名前をつけるという典型的なマーケティング手法です。

 もちろん、Webサービス自体はとても興味深いものです。コンピュータの処理能力、メモリー、通信をまとめて、インタフェースを持つアプリケーションとしたものです。それをWeb2.0やWebサービス、あるいはSOAP、UDDI、XMLなどのキーワードで呼んでいるわけです。こうしたWebアプリケーションは、サーバーの場所によらず、ユーザーは自由に利用できます。サーバーの分散管理もできるので、非常時でもサービスの運営は継続できます。Webアプリケーションはビジネス分野でも有効といえるでしょう。